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報告
「知の統合」の人材育成と推進
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平成29年(2017年)9月20日
総合工学委員会
工学基盤における知の統合分科会

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この
は、日本学術会議総合工学委員会工学基盤における知の統合分科会知の統合推
進小委員会での審議結果を踏まえ、総合工学委員会工学基盤における知の統合分科会にお
いて取りまとめ公表するものである。
日本学術会議総合工学委員会工学基盤における知の統合分科会
委員長
副委員長
報告
辰次
吉村
小山田耕二
水野
北川源四郎
高橋 桂子
青柳 正規
淺間
池田 雅夫
上田 完次
苧阪 直行
岸浪 建史
木村 忠正
木村 英紀
小泉 英明
小畑 秀文
鈴木 久敏
為近 恵美
柘植 綾夫
野家 啓一
萩原 一郎
早川 義一
本庶
(連携会員)
(連携会員)
(連携会員)
(連携会員)
(第三部会員)
(第三部会員)
(連携会員)
(連携会員)
(連携会員)
(連携会員)
(連携会員)
(連携会員)
(連携会員)
(連携会員)
(連携会員)
(連携会員)
(連携会員)
(連携会員)
(連携会員)
(連携会員)
(連携会員)
(連携会員)
(連携会員)
中央大学研究開発機構教授、東京大学・東京工業大
学名誉教授
東京大学副学長、大学院工学系研究科教授
学術情報メディアセンターコンピューティング
研究部門ビジュアライーゼーション研究分野
埼玉大学大学院理工学研究科人間支援・生産科学部
門教授
大学共同利用機関法人情報・システム研究機構機
構長
国立研究開発法人海洋研究開発機構
地球情報基盤センターセンター長
前文化庁長官、東京大学名誉教授
東京大学大学院工学系研究科教授
大阪大学名誉教授
国立研究開発法人産業技術総合研究所特別顧問、
東京大学名誉教授(平成2711月まで)
京都大学名誉教授
国立大学法人室蘭工業大学監事・工学博士
電気通信大学名誉教授
早稲田大学理工学術院招聘研究教授
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株式会社日立製作所フェロー
学校法人嘉悦学園理事
大学共同利用機関法人情報・システム研究機構監
事、筑波大学名誉教授
横浜国立大学成長戦略研究センター客員教授
社団法人科学技術国際交流センター顧問
東北大学高度教養教育・学生支援機構教養教育院
総長特命教授
明治大学研究知財戦略機構・特任教授、東京工業大
学名誉教授
愛知工業大学工学部教授
京都大学大学院医学研究科特任教授
ii

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日本学術会議総合工学委員会工学基盤における知の統合分科会知の統合推進小委員会
委員長
本提言の作成にあたり、以下の職員が事務
事務
山口しのぶ (連携会員)
東京工業大学学術国際情報センター教授
大和 裕幸 (連携会員)
東京大学理事・副学長
鈴木 久敏 (連携会員)
大学共同利用機関法人情報・システム研究機構監
事、筑波大学名誉教授
山口しのぶ (連携会員)
東京工業大学学術国際情報センター教授
北川源四郎 (第三部会員) 大学共同利用機関法人情報・システム研究機構機
構長
高橋 桂子 (第三部会員) 国立研究開発法人海洋研究開発機構
地球情報基盤センターセンター長
池田 雅夫 (連携会員)
大阪大学名誉教授
木村 英紀 (連携会員)
早稲田大学理工学術院招聘研究教授
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小畑 秀文 (連携会員)
学校法人嘉悦学園理事
柘植 綾夫 (連携会員)
社団法人科学技術国際交流センター顧問
早川 義一 (連携会員)
愛知工業大学工学部教授
辰次
(連携会員)
中央大学研究開発機構教授、東京大学・東京工業大
学名誉教授
西村 秀和
慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメン
ト研究科教授
および調査を担当した。
石井 康彦 参事官(審議第二担当)(平成 29年7月まで)
粂川 泰一 参事官(審議第二担当)(平成 29年7月から)
松宮 志麻 参事官(審議第二担当)付参事官補佐(平成 29年7月まで)
髙橋 和也 参事官(審議第二担当)付参事官補佐(平成 29年7月から
柳原 情子 参事官(審議第二担当)付審議専門職
iii

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作成の背景
日本学 術会 議で「知の統合」に関 する議論が始まってから 10 年以上が経 過し、人材育成
の重要性に対 する認識を含め議論が深化してきたが、具体的施策に結び付くまでに至って
いないのが現状 である。当 分科会 では、これまでの提言、報告、記録 並びに近年の海外動
向を踏まえ、社会 的課題の認識・ 把握・ 解決に向けた知の統合を推進する体制の観 点から、
) 知の統合を担う人材(知の統合人材)の育成
) 知の統合人材の評価
) 知の統合に関 する研 究・ 人材育成・ 社会 実 装を担う組織体制
について議論し、一定の結論を得たので、本報告にまとめる。
現状および問題点
(1) 知の統合人材への期待
先端化・ 細分化する科学 技術と学 術および教 育の現状 は、科学 技術・ 学 術に対 する社
会 からの期待に対 して十分応 えられていない。知の統合人材には、①社会 が求めるもの
をいち早く嗅ぎ取る感性とそれを言葉やイメー ジで表現できる力、②複数 の専 門分野に
関 心を持ち、それらの分野の専 門家とコミュニケー ションができる素養、③異なる分野
の知を統合し、社会 が求める価 値に転 換できる知識と技能、④異なる分野の専 門家を統
率できるリー ダシップや人間的魅力などが必要とされており、そうした素質を持つ人材
を発 掘し、育成することが強 く期待されている。
(2) 旧来の専門性重視から脱却した知の統合人材の評価システム
大学 、公的セクター 、産業界における知の統合人材の評価 は如何にあるべきか、その
目的、評価 項目、評価 時期、評価 方法など評価 システムを固め、知の統合人材の適切な
処 遇を確立すべき段階にある。わが国 の大学 の工学 分野における教 育内 容は、伝 統的な
電気 ・ 情報系、機械系、化学 ・ 材料系、建築・ 土木系、生命系等に分類されるものがほ
とんどであり、公的セクター や企業の多くも、旧 来 の分野別枠 組みで人材を評価 し、採
用を決めている。一方で、イノベー ションを引き起こすために必要とされる知の統合人
材は、専 門性を過度に重視した従 来 からの評価 システムでは対 応 できないため、旧 来 の
専 門性重視の評価 からの脱 却が求められる。
知の統合人材の能力評価 において、①学 術論文は必ずしも能力を表さない、②学 術的
な能力の面でも論文数 は必ずしも客観 的な質の評価 に繋 がらない、という2つの課題が
ある。しかし、知の統合人材として優れた能力を発 揮する者が大学 や公的研 究機関 に職
を得ようとすると、旧 来 の評価 システムに晒 され、相対 的に不利になるため、知の統合
を研 究する領域に有能な人材が集まり難い。この状 況を打破するには、評価 システム自
身を見直して、新たに構築し、かつそれを実 践 する「場」が必要である。
(3) 異分野の知をシステム統合する知識・技術の体系化の必要性
社会 的・ 経 済 的価 値は、異分野の知を統合したシステムを通じて生み出されることが
iv

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多い。システム構築を成功させるには、システムが果たすべき目的や機能、システムの
環境、含まれる部品や要素などを、全体として総 合的に捉え、所与 の社会 的・ 経 済 的価
値を実 現するシステムに統合する設計思想(システムアー キテクチャ)が必要である。
異分野の知
統合
を促進し、良いシステム構築に繋 ぐ学 術体系の確立が求められている。
報告等の内容
(1) 大学、公的セクター、産業界における知の統合人材の育成
知の統合人材の育成には異なる知と出会 う機会 が必須である。人材の流動性を高めて、
分野、組織、セクター の壁を乗 り越え、大学 院生・ ポスドク、若手研 究者・ 技術者が多
様 な場で自己研 鑽に取り組める機会 を提供することが必要である。大学 や研 究機関 等の
人材育成を担う組織は、社会 的課題を抱える企業や行政等と共同で実 問題解決を前提と
した研 究開発 プロジェクトを立ち上げ推進し、そのプロジェクトに大学 院生・ ポスドク
らを参 加させ、知の統合を実 体験 させる実 践 教 育を行うことが重要である。
(2) 知の統合人材評価システムの構築
知の統合人材の評価 には、これまでの研 究成果や研 究人材の評価 とまったく異なる評
価 システムが必要となる。知の統合人材は、①生み出した成果の社会 的・ 経 済 的価 値、
②成果を価 値創出に繋 げた「知の創造プロセス」、③研 究開発 プロジェクトを遂行する組
織マネジメント力で評価 されるべきである。成果の社会 的・ 経 済 的価 値の認定・ 計量に
は、成果や類似成果が、どこで、どのように使われ、どのような価 値を生み出している
かのデー タベー スが必要となる。知の創造プロセスの評価 には、成果を生み出すのに使
われた数 値デー タ、モデル、分析方法などのメタ研 究情報がデー タとして管理・ 保存さ
れ、公表されている必要がある。組織マネジメント力の評価 には、成果が使われた個別
ドメインから独 立した評価 部門が必要であり、組織戦 略との兼ね合いから事業トップが
関 与 する形が望ましい。このような包括的かつ多面的な新たな評価 システムを構築する
必要がある。
(3) 知の統合に関する研究・人材育成・社会実装を担う組織体制の構築
知の統合が扱う問題は複数 の科学 、広 範なドメインに跨る問題であり、分野横 断 的な
知の専 門家とそれを適用する個別ドメインに関 する知の専 門家との共同作業が必要で
あり、分野横 断 知とドメイン知の統合による新たな価 値創出の枠 組みが求められる。こ
のため、知の統合の推進組織のミッションを以下の3つと定め、その組織体制と運営 上
の工夫を提案する。①認識科学 と設計科学 の連携を図 り、社会 の持続 的発 展に繋 がる具
体的な社会 的課題に対 して、知の統合による課題の認識・ 把握・ 解決を目指すプロジェ
クトを立ち上げ推進し、その成果を社会 に実 装してイノベー ションや新たな産業の興隆
につなげる、②たとえば次世代交通物流システムのようなシステム構築プロジェクトを
通して、新たな分野横 断 知の創造や知の統合に向けた方法論・ ツー ルの開発 を推進し、
新たに生起する社会 的課題の認識・ 把握・ 解決にも適用可能な「知の統合プラットフォ
ー ム」の形成により、学 際的・ 統合的・ 俯瞰的な学 術体系「知の統合学 」を確立する、
③産業界、行政、並びに学 術界における知の統合人材を育成する。
v

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知の統合に関する国内外の動向と本報告の位置付け
............................
1
(1
)
日本学術会議の過去の2つの提言の概要
...................................
1
(2)
日本学術会議総合工学委員会等の過去の報告・記録の概要
...................
1
(3)
知の統合に関する海外動向
...............................................
2
(4)
本報告の位置付け
.......................................................
3
状況認識
..................................................................
4
(1)
社会からの期待
.........................................................
4
(2)
期待される人材
.........................................................
5
(3)
知の統合人材の評価
.....................................................
6
現状の問題点、克服すべき課題
..............................................
7
(1)
知の統合人材とその育成
.................................................
7
(2)
知の統合人材の評価方法
.................................................
8
(3)
専門性と細分化
.........................................................
8
(4)
システム統合としての認識
...............................................
9
(5)
異分野の知を統合する知識・技術の体系化
................................
.
10
知の統合人材の育成への試み
...............................................
11
(1)
大学における人材育成
..................................................
11
(2)
システム構築プロジェクトによる人材育成
................................
11
知の統合人材の評価
.......................................................
13
(1)
評価方法
..............................................................
13
(2)
評価システムの構築
....................................................
14
(3)
評価のための具体的な提案
..............................................
14
知の統合の推進体制
.......................................................
16
(1)
知の統合を推進する学術の確立
..........................................
16
(2)
推進組織が持つべき機能、あるべき姿
....................................
16
(3)
推進組織の体制と運営
..................................................
18
まとめ
...................................................................
20
<用語の説明>
...............................................................
21
<参考文献>
................................................................
.
28
<参考資料1>
審議経過
.....................................................
33
<参考資料2>
シンポジウム開催
.............................................
34
<付録1>
知の統合を巡るこれまでの様々な議論
...............................
37
<付録2>
システム科学研究所構想について
...................................
44
<付録3>
知の統合プラットフォーム研究開発拠点
KCP
-
Complex
の形成
...........
47

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知の統合に関する国内外の動向と本報告の位置付け
(1) 日本学術会議の過去の2つの提言の概要
先端化・ 細分化する科学 技術と社会 から期待される科学 技術とのギャップの拡 大に対
する危機感から、2003 年4月に横 断 型基幹科学 技術研 究団 体連合(横 幹連合)が設立さ
れ、知の統合の重要性を訴える活動を開始した。日本学 術会 議では、同様 の危機感を持
ち、
知の統合に関 して
つの重要な提言を行ってきた
[1]
[2]
(付録 1に概 要を示す)
科学 者コミュニティと知の統合委員会 提言[1]では、「知の統合」を『異なる研 究分野
間に共通する概 念、手法、構造を抽出することによって各分野間での知の互換性を確立
し、それを通じてより普遍的な知の体系を作り上げること』と定義し、新たな価 値を生
むが新しい知を生まない「総 合」や異なる分野の知が1つに融け合う「融合」とは異な
る概 念とした。旧 来 の学 術が知の体系の細分化に流れ「社会 のための科学 」の障壁とな
っていること、科学 者コミュニティが知の細分化問題を十分に自覚 していないことの2
点を課題と指摘し、知の統合が、社会 のための科学 の実 現にとって必要不可欠な概 念で
あると述べている。さらに、知の統合を図 る施策として、①認識科学 と設計科学 の連携
促進、②研 究マネー ジメントリー ダの養成、③文と理のインター フェー スを果たす人材
の育成や異分野間の知的触 発 を促進する教 育研 究環境の整備などを挙 げている。
社会 のための学 術としての「知の統合」推進委員会 提言[2]では、幅広 い学 術の視点か
ら知の統合の推進を目指して、新しい発 見や創造あるいはイノベー ションのための知の
統合並びに知を結集した統合的研 究(以下、「知の統合研 究」と呼ぶ)による社会 的課題
解決のために必要な方法論を明らかにした。知の統合に繋 がる異分野連携の成功事例の
分析を通して、①時代の必然的要請、②連携を行う場の存在、③推進を担う適切な人材
の存在という3つの成功要因を見出している。また、知の統合を推進し社会 的課題を解
決するための具体的な方策として、「知の統合知識ベー ス」の構築や基盤整備を訴えてい
る。知の統合を担う人材の育成には、評価 の仕組みと評価 基準の見直しや当 該人材のキ
ャリアパスの整備が必要と指摘している。
上述の提言[1][2]の間に出された日本の展望委員会 提言[3]においては、蓄積しつつ
ある地球規模の問題を解決するための統合的研 究と、それを体系化する「統合の科学 」
の発 展を主張している。理工学 分野の課題は、科学 の目標が固定価 値の解明から変 化過
程の解明・ 問題解決へシフトしており、分野を細分化する手法では、現代社会 が抱える
複合的課題に対 応 することは困難であるとして、従 来 の領域型分野を再編し、新しい価
値観 や科学 ・ 技術を生み出す知の統合と、そのための新しい研 究方法論の開拓や新しい
研 究推進体制の構築が必要と指摘している。
また、研 究評価 の在り方検 討委員会 対 外報告[4]は、研 究課題に応 じた評価 基準や評価
の在り方、第三者評価 の必要性に言及し、人文・ 社会 系分野等を含めた多様 な研 究分野
の評価 方法の確立、研 修を通じた評価 能力の向上や評価 人材の必要性を指摘している。
(2) 日本学術会議総合工学委員会等の過去の報告・記録の概要
日本学 術会 議の下で「知の統合」の概 念が最初に現れたのは、2005 年の自動制御研 究
1

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連絡委員会 ・ 工学 共通基盤研 究連絡委員会 自動制御学 専 門委員会 報告[5]である。[5]
は、知の統合を設計科学 (利用知の体系化)や機能・ 働 き(コト)を扱う横 断 型基幹科
学 技術との関 係から捉えている。社会 のための学 術の発 展に貢献 するには、①「対 象(も
の)の知」と「機能・ 働 き(コト)の知」の統合、②横 断 型基幹科学 技術の振興、③従
来 の科学 技術と異分野融合を促す科学 技術を縦 ・ 横 で捉える2次元構造の評価 システム
が必要と述べている。その後の議論は報告・ 記録 [6][7][8][9]に取りまとめられている
(付録 1に概 要を示す)
総 合工学 委員会 工学 基盤における知の統合分科会 記録 [6]では、知の統合の推進方策
として、①戦 略的研 究プロジェクトを通したトップダウン型研 究(課題解決型研 究)と
②ボトムアップ型研 究(好奇心駆 動型研 究)の2つがあると指摘し、課題解決型では知
の統合を内 部にはらむプロジェクトの立ち上げが鍵であり、好奇心駆 動型では当 時の科
学 研 究費補助金審査システムが「知の統合型研 究」に対 応 できないことを検 証した上で、
新しい研 究種目の追加と評定要素の導入が成功の鍵であると指摘している。
総 合工学 委員会 報告[7]では、知の統合が総 合工学 の役割であることを明確にし、その
分野における人材育成の重要性を指摘している。
総 合工学 委員会 工学 基盤における知の統合分科会 記録
[8]
では、
知の統合学
」を「人
文・ 社会 科学 、自然科学 、設計科学 ないしは創造科学 を横 断 的に俯瞰し、知の統合のた
めの方法論と方策を明確にして体系化を図 り、これを実 践 して行くための科学 」と定義
している。また、事例をベー スに知の統合を引き起こす「方法論知」を導出し、異分野
交流の場を有効 にする工夫や知の統合プロジェクト推進上の課題を指摘している。
総 合工学 委員会 工学 基盤における知の統合分科会 記録 [9]では、知の統合が優れたリ
ー ダや個人的な資質に強 く依存し、形式知化されていないと指摘し、知の統合学 に昇華
するため、モデル化、シミュレー ション、予測、意思決定、VR などのヒュー マンインタ
フェー スをサイバー 空間に仮想的に展開し、様 々 な立場のメンバー が分散して活用可能
な「知の統合プラットフォー ム」の構築と、これらを担う組織
の構成
を提案している。
(3) 知の統合に関する海外動向
20 世紀の終盤からグロー バル化が進み、世界が直面する問題も多様 化し、科学 技術を
リー ドする国 々 においても研 究者を取り巻 く環境が大きく変 化した。米国 では「発 見、
学 びとイノベー ションを通じて国 の将 来 に貢献 する」という 50 年来 のビジョンを有し
た米国 科学 財団 (NSF: Nat i onal Sci ence Foundat i on)が、21 世紀に入り、学 術の境界
を超えた研 究の重要性を説 いている[10]。特に高等教 育においては、分野を超えた、い
わゆる越境的アプロー チを理解し、学 際的な考え方ができる hol i sti c desi gners(全体
論的または総 体的デザイナー )が、イノベー ションの実 現には必要不可欠であると説 い
ている。また、近年では知の統合(consi l i ence[11]が盛んに議論されるようになった。
社会 のニー ズに基づいてバイオ技術、ナノ技術、情報技術、認知技術の知識を統合し、
人間行動を組み合わせて、持続 可能な質の高い生活水準の実 現を目指している[12]
「知と技術と社会 の統合」は、世界のトレンドとなりつつある。EUHori zon 2020
2

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ログラムでは、研 究の成果をイノベー ション、経 済 成長、雇用に結び付けることを目指
している[13]。第一優先の卓越した科学 支援では、新しくかつ有望な分野の連携研 究が
強 調され、第三優先の社会 的問題への取り組み支援では、7つの課題が抽出され、分野
間の共同研 究が奨 励 されている[14]21 世紀に入り、欧 州の各国 は、地球規模の問題に
対 応 するため、これまでの価 値観 とは異なる新しい知の創造の必要性を説 いている。ド
イツでは、研 究、イノベー ション、創造性を生活水準維持のための重要項目と位置付け、
卓越した若手研 究者支援に際して、学 際的な思考ができる研 究者が周りに居る研 究環境
を重要視している[15]。また、スウェー デンの「未来 の研 究リー ダプログラム」では、
卓越した科学 技術的能力に加え、リー ダシップと経 営 能力と研 究結果の実 装に関 する能
力や自分の殻 を破って活動する資質を選定基準としている。2017 年からの研 究戦 略では、
研 究成果の社会 貢献 性および研 究の学 際性を重要項目として明記している[16]
米国 では、2014 年5月に米国 学 術研 究会 議(NRC: Nat i onal Research Counci l )が、
『ブレー クスルー を引き起こし、学 問の壁を越えて横 断 的な問題解決を図 る知の統合研
究を支援する全国 レベルでの協調が必要』という緊急提言[17]を行った。そこでは、知
の統合研 究を、生命科学 、自然科学 、工学 などの学 問領域の壁を越えてツー ルや知識を
統合するものとし、知の統合研 究はイノベー ションを加速し、社会 の問題解決に取り組
むのに役立つが、これまで以上に大規模な協調が必要であり、学 問分野毎 に研 究体制を
組織してきた研 究機関 にとってカルチャー 転 換が必要であると指摘している。知の統合
の成功事例として工学 とバイオ技術の統合による3次元印刷技術を挙 げ、研 究助成機関
同士の協調例として米国 立衛生研 究所(NI H: Nat i onal I nst i tut es of Heal t h)と米国
エネルギー 省(DOE: Depart ment of Energy)のヒトゲノム解析計画 を挙 げている。知の
統合への努力を支援するための戦 略として、①共通のテー マ、課題、科学 的挑戦 に取り
組む研 究組織やプログラムの設立、②分野横 断 的クラスタでの研 究者の雇用、③知の統
合への関 与 を昇進やテニュア獲得プロセスに反映すべきと述べている。NSF 長官 France
Cordova2016 年5月に米国 科学 審議会 (NSB: Nat i onal Sci ence Board)の理事会 で
NSF
の将 来 に向けた方針を提案し、称 賛 され
[18]
。提案
は、
知の統合
ディシプリ
ンを持った研 究者を招集しグランドチャレンジに挑ませる新しい考え方である』とし、
知の統合研 究推進のために、評価 基準の根本的な見直しに着手すると述べている。
(4) 本報告の位置付け
日本学 術会 議が知の統合の議論を開始して 10 年以上が経 過し、その議論が次第に深
化してきたと言える。また海外でも知の統合を支援する動きが急速に進行中である。
総 合工学 委員会 工学 基盤における知の統合分科会 及び同知の統合推進小委員会 (以下、
本分科会 等)では、上述の提言[1][2][3]、報告[5] [4] [7]、記録 [6][8][9]、ならびに
海外動向を踏まえて更なる検 討を加え、大学 、公的セクター 、産業界が連携して社会 的
課題の認識・ 把握・ 解決に向けた知の統合を推進する観 点から、①知の統合を担う人材
(知の統合人材)の育成、②知の統合人材の評価 、③知の統合に関 する研 究・ 人材育成・
社会 実 装を担う組織体制、の3点について一定の結論を得たので、ここに報告する。
3

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状況認識
(1) 社会からの期待
科学 技術と学 術に向けた社会 からの期待は、1999 年に国 際科学 会 議(I CSU)が発 した
ブダペスト宣言の機軸「社会 のための科学 、社会 における科学 」に代表され、21 世紀の
世界が直面する地球規模の様 々 な社会 的課題を解決する実 践 的貢献 へと変 化している。
また、世界工学 連盟(WFEO)・ 日本工学 会 ・ 日本学 術会 議主催の 2015 年第5回世界工学
会 議(WECC2015)の京都宣言でも「社会 のための工学 、社会 における工学 」が謳われた。
しかしながら、益々 、先端化・ 細分化する科学 技術と学 術および教 育の現状 は、これ
らの社会 からの期待に対 して十分応 えていない。初等・ 中等教 育で学 習内 容と社会 生活
とを関 連付ける教 育が不足しているために、生徒たちの多くが理科・ 数 学 の学 習に対 す
る興味と意欲を失っていく傾向がある。また高等教 育段階においても、社会 的課題の解
決能力に関 する知識と知恵 に関 する学 習不足が指摘されている[19]。「教 育(人材育成)」
と「研 究(知の創造と科学 技術革新)」と「イノベー ション(社会 的・ 経 済 的価 値の創造)」
の三位一体的推進を謳った日本学 術会 議の提言[3]の実 践 が今こそ求められている。
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図1 知の創造と社会的・経済的価値創造を結ぶネットワ-ク(出典[20]
科学 技術の研 究成果を社会 的・ 経 済 的価 値創造に結実 させる知の統合は、図 1に示す
ように「自由な発 想による基礎研 究(知の創造)-目的基礎研 究-応 用・ 実 用化研 究開
発 -製品開発 ・ 市場投入・ 普及・ 標準化」の4層構造であり、かつ複雑 なプロセス(多
くは、非線形かつ確率論的特性)と言える[20][21]。このプロセスを成功させる鍵は、
①各階層間での双 方向の適切なコミュニケー ション、②上位階層の社会 ニー ズを下位の
基礎研 究に伝 える還流、③同一階層内 の研 究領域間での分野横 断 的かつ有機的な双 方向
の知の結合の3つである。科学 技術に対 する社会 からの期待に応 えるには、横 軸の多様
4

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な科学 的・ 学 術的知を相互に結合・ 統合すると共に、縦 軸の基礎研 究から製品開発 ・ 市
場投入・ 普及・ 標準化までに様 々 な知の統合が必要であり、今まさに知の統合が求めら
れている。教 育と研 究とイノベー ションを三位一体的に進めることで、この構造と特性
を理解し、このプロセスを適切にマネジメントできる人材を育てることができる。
この視点に立ち、日本学 術会 議や日本工学 会 など各学 術団 体は、I CSU1999 ブタペスト
宣言や WECC2015 京都宣言の観 点から、それぞれの活動の現状 を可視化し、社会 からの期
待に応 える行動計画 を立て、それを実 践 する必要がある。その視座として図 1のように、
個別の科学 的・ 学 術的知の創造活動と社会 的・ 経 済 的価 値創造に向けた知の統合活動の
実 践 に向けた複眼的分析と可視化が求められている。同時に、この科学 技術駆 動型イノ
ベー ション・ エコシステムは「教 育と研 究とイノベー ションの三位一体的推進」によっ
て、はじめて持続 可能となることも忘れてはならない。なお、ここでの教 育には、初等・
中等教 育から高等教 育、さらには生涯学 習のあらゆる教 育段階での教 育効 果(アウトカ
ム)と、各教 育段階の間の橋渡し、この2つの視点を欠くことができない[22]
(2) 期待される人材
21 世紀の人材育成に関 し、学 力だけではなく、創造性、コミュニケー ション能力、問
題解決能力などを含めた総 合的な能力が、刻々 と変 化する世界に対 応 できる人材として
必要不可欠であることが指摘されている[23]OECD では、「ものづくり産業を基盤とし
た社会 経 済 に根ざした教 育は前世紀のものであり、21 世紀の教 育は若者が知識社会 に対
応 するためのスキルを習得する手助けをしなければならない」としている[24]
第5期科学 技術基本計画 中間取りまとめ[25]は、「我が国 は個別の製品や要素技術で
強 みを持つものの、それらを組み合わせ、統合したシステムとしてデザインする力が十
分ではなく、その強 みを生かし切れていない」と述べている。「知」の創造プロセスが急
速に変 化する中、旧 来 の枠 組みに囚われない自由な発 想力を有し、異なる背景をもつ専
門家や研 究者と積極的に交流する人材が期待される。
成案となった第5期科学 技術基本計画 [26]や日本学 術会 議イノベー ション推進検 討
委員会 報告[27]によれば、失敗を恐れず高い障害に果敢に挑戦 し、他の追随 を許さない
イノベー ションを生み出していく営 みが重要である。既 存の慣習やパラダイムに囚われ
ることなく、社会 変 革の源泉となる知識や技術のフロンティアに挑戦 し、社会 実 装を試
行し続 けていくことで、新たな知識や技術を生み出し、そこから画 期的な価 値を創出す
ることが求められている。そして、そうした価 値は、既 存の競争 ルー ルを一変 させ、競
争 力に大きな影響を与 え得ることが指摘されている[26]。さらに新たな価 値を生み出し、
社会 的に大きな変 化を起こすイノベー ションのためには、新たな価 値を生み出す源泉と
して学 術研 究が不可欠であると同時に、単 に特定分野における学 術研 究のみでは困難で
あること、および学 術研 究の成果が学 術分野に閉ざされてはならないことを指摘してい
[27]。イノベー ションを引き起こすためには、まさにこれらを担う人材が必要である
と言える。言い換えれば、知の統合を推進し、統合のプロセスをマネジメントできる人
材であり[1]、以下、これを「知の統合人材」と呼ぶことにする。これまでの提言・ 報告
5

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等を纏めると、知の統合人材には、
) 社会 が求めるものをいち早く嗅ぎ取る感性と言葉やイメー ジとして表現できる力
) 複数 の専 門分野に関 心を持ち、当 該専 門家とコミュニケー ションができる素養
) 異なる分野の知を統合し、社会 が求める価 値に転 換できる知識と技能
) 異なる分野の専 門家を統率できるリー ダシップや人間的な魅力
などの
素質
能力が必要とされており、その発 掘と
育成が強 く
期待されていると言える
(3) 知の統合人材の評価
知の統合人材を育成しても、それらの人材が活躍しやすい環境を構築しなければ、イ
ノベー ションの創出には至らない。そのために特に注意すべきは、知の統合人材の評価
の仕組みが大学 、公的セクター 、産業界で確立していないという現状 である。旧 来 の評
価 指標は、基礎研 究や要素研 究を担う人材の評価 には適しているかもしれないが、前節
で述べた知の統合人材の評価 に適しているとは言い難い。知の統合人材には、学 術論文
の数 と掲 載誌の質では測れない能力が要求されているのであり、旧 来 の評価 指標の下で
は正当 な評価 がなされないのは明らかである。
知の統合研 究の研 究評価 については、[2][8]に指標が提示されている。一方、知の統
合人材の評価 については、議論 が緒 に就いたばかりである。何をもって「価 値ある業績」
とするのか、学 術論文のあり方自身も変 わっていく必要がある。これまで専 門性を重視
していた工学 分野でも、エンジニアリングの本質は知の統合による価 値の創出であると
認識を改め、評価 基準の見直しを進めるなど、評価 する側も変 わりつつある、あるいは
変 わらざるを得ない状 況にあり、海外でも評価 基準の見直しが進んでいる[15][16]
伝 統的な科学 技術分野であっても、新たな知の発 見や発 明それ自身のみならず、その
ような発 見・ 発 明に繋 がったデー タやモデルの構築についても、その価 値が見直されつ
つある。新たな発 見・ 発 明を次につなげるには、どのようにデー タを集め、どのような
仮説 の下に、どのようなモデルを構築し、どのように分析した結果なのかという、結論
の背後にある構造や道具建てが重要視されるようになってきたと言える。このような動
向を受け、近年、デー タジャー ナル(例えば[28])の発 刊により、デー タがどの分野で
どのように使われたか、モデルや分析システムの活用がどのように行われたのかが、第
三者にも見えるようになってきた。この点からも評価 の指標に変 化の兆しが見える。た
とえばビッグデー タで注目されるデー タサイエンス分野[29]では、デー タサイエンティ
スト協会 がデー タサイエンティストに必要とされる能力として、約 400 項目にわたる詳
細なスキル標準[30]を定めており、学 術論文だけを評価 の対 象としていない。
知の統合研 究のそれ自体の評価 の仕組みは、当 然ながら知の統合を推進する人材の評
価 と不可分な関 係にある。知の統合研 究の評価 の仕組みをベー スに、知の統合人材の育
成に資する評価 は如何にあるべきか、その目的、評価 項目、評価 時期、評価 方法(相対
評価 と絶対 評価 )など、その具体像を固め、大学 、公的セクター 、産業界において知の
統合人材が適切に評価 され得る環境を早期に確立すべき段階にあると言えよう。
6

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現状の問題点、克服すべき課題
日本学 術会 議で「 知の統合」に関 する議論が始まってから 10 年以上が経 過し、人材育成
の重要性に対 する認識を含め議論が深化してきたが、具体的施策に結び付くまでに至って
いないのが現状 である。その最も大きな要因は、様 々 な意味で「縦 割り思考」の強 い日本
の文化にあると考えられる。「知の統合人材」を育成し、社会 的課題解決に向けた「知の統
合」を実 現していくためには、この認識を共有し、既 存の学 問分野の枠 をはるかに超えた
「分野横 断 的枠 組み」の導入による具体的施策や組織化の検 討が急務と言える。本章では、
人材育成・ 評価 システム・ 学 術の体系化等の幾つかの視点で、現状 の問題点と克服すべき
課題を整理する。
(1) 知の統合人材とその育成
知の統合人材は、科学 技術イノベー ションによる日本社会 の活性化の観 点から、今日
の企業でもっとも求められる人材であるが[31]、残 念ながら現状 ではそのような人材は
産業界においてすら少なく、大学 等で系統的な育成が強 く望まれている。
知の統合人材の育成について、報告[27]は、以下の3つの原則を示した。
) 多様 な価 値観 を認める多面的な人材を育てる
) 互いに積極的に異文化との交流を図 り、切磋琢磨する人材を育てる
) 生き生きとして新しいことに挑戦 する人材を育てる
また、具体的な人材育成システムとして、①世界から人材を集める大学 院づくり、②
学 部教 育の強 化と開放、③初等中等教 育における学 問力の向上の3点が必須であると指
摘しているが、その実 現には至っておらず、これらを実 行することが喫緊の課題と言え
る。
文部科学 省および経 済 産業省の下に組織された理工系人材育成に関 する産学 官円卓
会 議[32]では、専 門分野の枠 を超えた俯瞰的な視点を持ち、修得した知識・ 技術を社会
に応 用できる実 践 的・ 専 門的な能力を育成するため、実 践 的な内 容・ 方法による授業の
提供(産業界から講師の派遣・ 登用、PBL、企業の実 例を用いた演習、インター ンシップ
等)の促進、産学 共同研 究を通じた博士人材の育成、研 究開発 プロジェクト等を通じた
人材の育成など、産業界との密な連携の重要性を指摘している。
文部科学 省大学 間連携共同教 育推進事業「KOSENイノベー ティブ・ ジャパン
ロジェクト」[33]において、高等専 門学 校(KOSEN)が目指すべきは、
) 市民や異なる分野の専 門家から生まれる「生きている情報」を工学 上の言葉や具体
的な技術に変 換することのできる高度なコミュニケー ション力
) 社会 の複雑 な要求に基づきながら改善や改良に取り組む主体性と創造性
の教 育とされている。これらの能力の育成には、現実 の問題に正面から向き合い、他者
との対 話と工学 的な知識を駆 使し、価 値を共に創造する経 験 が必要で、①課題を把握す
る、②提供する価 値を考案する、③社会 に導入する、④評価 を得る、の4ステップから
構成される教 育プログラムが提案されている。
知の統合人材は、大学 、特に大学 院において伝 統的に育成されてきた特定分野の専 門
家・ 研 究者イメー ジとは大きく異なる。その育成の方向性は各種の答申や提言等で示さ
7

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れており、教 育・ 研 究・ イノベー ションの三位一体の下で、大学 、公的セクター 、産業
界が連携した知の統合人材の育成体制の早期実 現が望まれている。
(2) 知の統合人材の評価方法
研 究人材の評価 では、学 術的な能力を、学 術論文数 、掲 載論文誌の格やインパクトフ
ァクタ、論文の被引用数 、そして同じ分野の研 究者によるピアレビュー で評価 するのが
通例である。しかしながら、学 術的な能力の面でも、論文数 は必ずしも客観 的な質の評
価 に繋 がらないばかりか、このような論文数 中心の評価 は、必ずしも知の統合人材の能
力評価 に相応 しくないと言える。
論文は特定の専 門分野内 での新規性、独 創性の評価 には有効 であっても、その内 容が
社会 的課題を認識・ 把握・ 解決し、人類に役立つ価 値を生み出すとは限らない。まして
学 術論文数 によって知の統合人材としての能力は測れない。とは言え、現実 には、研 究
者の能力評価 は論文数 中心で行われており、多様 な視点からの包括的な評価 はなされて
いない。仮に知の統合人材として優れた能力を有する者でも、大学 や公的研 究機関 に職
を得ようとすると旧 来 の評価 システムに晒 され、大学 や公的研 究機関 に適切な人材が集
まり難い。
これを打破するには、大学 、公的セクター 、産業界における知の統合人材の評価 法を
見直し、新たな評価 システムを構築する必要がある。
(3) 専門性と細分化
わが国 の大学 、特に工学 系分野においては、学 科や専 攻の名称 が多様 化しているにも
拘わらず、教 育内 容は伝 統的な電気 ・ 情報系、機械系、化学 ・ 材料系、建築・ 土木系、
生命系等に分類されるものがほとんどである。分野ごとに必ずマスター すべき科目の学
修が徹底され、他分野の内 容を含める余地は少ない。これは、教 員に対 する評価 が主に
同分野の研 究者によるピアレビュー であるため、学 生に対 しても領域が明確な伝 統的分
の修得を課すためと考えられる。また、企業経 営 者の多くが
「俯瞰的なものの見方が
できる人材、様 々 な部門の人間を統率できるリー ダシップを持った人材が必要であり、
大学 ではそのような人材を育て欲しい」[31]と言う一方で、大企業の人事部門の多くは、
評価 が容易である従 来 分野の枠 組みで学 生を評価 し、採用を決めている。実 際、既 存の
枠 組みに入らない新設の学 科・ 専 攻の学 生は就職に苦労 することが多い。
確かにこれまでは、大学 も、企業も、専 門分野に特化し、専 門性をどこまでも追及す
ることで他との差別化を図 り、生存を担保してきたといえる。その意味で、これまでは
専 門性の重視も意味を持っていたと言えるが、今日のように科学 技術が高度に進展し、
どこまでも細分化した状 況では、先端性のみで社会 的・ 経 済 的価 値を生み出すのは困難
になっている。すでに 20 世紀の終盤から、付加価 値がサー ビスやソフトウェア技術によ
って実 現されるようになり、ハー ドウェア技術だけで差別化できる要素は少なくなって
いる。過度の専 門性重視の姿勢は見直しを求められている。
細分化が進んだもう1つの要因は、人文社会 系の要素が入った分野が立ち上がったこ
8

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とも影響している。従 来 は人文社会 系と思われていた分野に対 しても、工学 的なアプロ
ー チ、認識科学 ではない設計科学 的なアプロー チが必要になって来 たことの現れであろ
う。このような新しい分野を開拓するには、過度に専 門性を重視した人材育成や評価 シ
ステムでは対 応 できないのは明らかである。
(4) システム統合としての認識
これまで日本学 術会 議の中で知の統合について多くの議論があり、さまざまの形でそ
の必要性が強 調されてきた[1][2][3][5][6][7][8][9]。これらの議論は学 術の現在の発
展段階における重要な課題を明らかにし、今後の学 術の方向性を示唆する意味で大きな
役割を演じてきたが、依然として抽象論のレベルに
止まり
、建前論の域を脱 していな
い。
一方、知の統合を具体的な研 究テー マに設定しようとすると、通常の融合プロジェク
トと区 別が付かない、在り来 りのものとなってしまい、どこに知の統合の理念があるの
か分からなくなってしまっていた。知の統合という理念を、どのように現実 の研 究開発
の課題に結びつけるか、そのための橋渡しになる方法論は何か、というきわめて深刻な
問題である。
これらの議論の中で浮かび上がって来 たのが「知の統合」と「システム統合」との関
係性である。知の統合は良いシステムを構築するために不可欠である。なぜなら、シス
テムは多くの異なる機能をもつ要素の集まりであり、要素がもつ機能はそれぞれの分野
の知が発 現した結果であり、したがってそれらを組み合わせたシステムを構築するには、
さまざまな分野の知の統合が必要となるからである。それだけでなく、われわれは様 々
なシステムに取り巻 かれている。たとえば、工業製品を作る生産ラインは、部品と機械・
機器、センサー 、通信系、ロボットなど、多くの要素からなる複雑 なシステムである。
設計、製造、出荷、物流、販売 、納入、保守を含むサプライチェー ンも、時間的な変 動
が大きな要因となるダイナミックなシステムである。さらに、われわれの生活に不可欠
なライフラインや通信、交通といったインフラも、金融、教 育、年金、医 療、保険 など
われわれが日常的に受けているサー ビスも、巨大な社会 システムと考えられる。システ
ム構築はきわめて具体的、普遍的な社会 的・ 経 済 的価 値創造であり、そこに知の統合の
理念を盛り込 むことは、知の統合の具体化を図 る上で、きわめて適切かつ説 得力を持つ
手法である。
これまで知の統合は、異なる分野の専 門家が目的を共有し、研 究場所を共有してプロ
ジェクトを行えば、それで実 現すると思われてきた感がある。しかしながら、知の統合
をシステム統合あるいはシステム構築の課題の下でさまざまな角度から照らしてみる
と、それだけではないことが分かる。システム構築は要素を集めて並べるだけではなく、
必要な機能を実 現するために、それらをどのように組み合わせるか、その結果どのよう
なメリットとリスクが生じるか、など様 々 な問題を内 包するからである。これらの問題
は、要素を作り上げる際に用いた各専 門分野の知だけでは解くことができない。要素で
ある異分野の知をシステムに統合するためのプラスアルファの知、すなわち知の統合学
が必要になるのである。科学 技術振興機構(JST)の研 究開発 戦 略センター (CRDS)では 、
9

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この知を「システム科学 技術」と呼び、さまざまな調査活動を行っている
[34][35][36][37]
知の統合をシステム統合の視点から推進することは、知の統合に関 する日本学 術会 議
における 10 年近い議論を集大成し、具現化する上で有力な推進策になり得る。
(5) 異分野の知を統合する知識・技術の体系化
克服すべき課題の1つに「システム思考の強 化」がある。システム構築を成功させる
には、構築しようとするシステムやそこに含まれる部品や要素、システムが全体として
果たすべき目的や機能、システムの置かれた環境などを、総 合的に捉え、所与 の社会 的・
経 済 的価 値を実 現するシステムとして統合する設計思想(システムアー キテクチャ)、す
なわちシステム思考が必要になる。システム思考を端的に表すのが、部分最適化を超え
る全体最適化である。各要素や部品はそれぞれ自分の機能を果たす上で最適な指標を持
っていて、その指標に最も合うようにシステムの活動を担おうとする。しかしその要求
通りに設計すると、全体として必ずしも最適とはならず、場合によってはシステムとし
ての機能を果たさなくなることもある。部分最適化が必ずしも全体の最適化に直結しな
いところに現代の複雑 なシステム構築の難しさがあり、質の高いシステム思考が必要と
される所以である。
これまで日本の科学 技術分野のさまざまなマイナス面が指摘されてきたが、それらの
多くはシステム思考の弱さ、あるいは異分野の知を統合する知識・ 技術の弱さ、体系化
の未整備として理解することができる。そのいくつかを挙 げると、①要素の性能に拘り
全体設計の視点が弱い、②ハー ドウェアには強 いがソフトウェアは弱い、③組織が縦 割
りで横 断 的な結びつきが弱い、④「ものつくり」には強 いが「もの」を使って実 現すべ
き価 値創造やサー ビスへの関 心が薄い、⑤成果が目に見える実 験 研 究が重視され理論研
究はあまり評価 されない、⑥プロジェクト研 究でも細分化が進行する傾向が強 く成果を
統合することへのモチベー ションが弱い、などである。これらすべてをシステム思考の
弱さに結びつけるには無理があろうが、少なくとも社会 実 装、そしてシステム構築の重
要性を念頭に置くことによって、克服できる可能性は高い。
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知の統合人材の育成への試み
(1) 大学における人材育成
このような背景のもと、第2期教 育振興計画 (対 象期間:平成 25 年度~平成 29 年度)
[38]では、高等教 育上の方策として「未来 への飛躍を実 現する人材の養成」が取り上げ
られ、変 化や新たな価 値を主導・ 創造し、社会 の各分野を牽引していく人材の重要性が
指摘されている。また、笠木は、『学 術の動向』[39]において、大学 院教 育におけるイノ
ベー ションの視点の重要性を指摘している。第5期科学 技術基本計画 [26]では、新たな
知識や価 値を生み出す高度人材やイノベー ション創出を加速する多様 な人材の育成・ 確
保が明記されている。具体的には、大学 院教 育を通じて、高度な専 門的知識と倫理観 を
基盤に、自ら考え行動し、新たな知およびそれに基づく価 値を創造し、グロー バルに活
躍する高度な博士人材について、産学 官の連携の下で育成することを謳っている。
文部科学 省と日本学 術振興会 は、平成 23 年度より「博士課程教 育リー ディングプログ
ラム」[40]を開始し、俯瞰力と独 創力を備えグロー バルに活躍するリー ダの育成を奨 励
している。そのため、専 門分野の枠 を超えて世界に通用する質の保証された学 位プログ
ラムを産・ 学 ・ 官の参 画 によって実 現しようとする大学 院教 育を支援している。具体的
には、文系、理系、医 学 系の 13 研 究科、11 海外大学 、11 企業の連携からなる「超成熟
社会 発 展のサイエンス」(慶応 義塾大学 )、9研 究科、10 大学 、23 機関 との繋 がりによる
「社会 構想マネジメントを目指したリー ダシッププログラム」(東京大学 )、14 研 究科と
9国 際機関 を含む外部機関 との連携による「京都大学 大学 院思修館協働 事業」(京都大
学 )
14
研 究科、7企業・ 機関 等との連携からなる「超域イノベー ション博士課程プロ
グラム」(大阪大学 )など、多様 な取り組みが企画 実 施されている。全部で 64 のプログ
ラムが展開され、様 々 な分野で研 究する若手人材の異分野間の融合を促進している。
知の統合人材の能力向上には、異なる知と出会 う機会 を経 験 することが必須である。
人材の流動性を高め、分野、組織、セクター の壁を乗 り越えるためにも、大学 院におい
て専 攻や大学 の枠 を超えた共同プログラムに社会 と連携した活動を取り入れ、大学 院教
育の質を向上させていくことが望まれる。また、学 生や研 究者が多様 な場で自己研 鑽に
取り組むことができるように、様 々 な機会 を提供することが必要である。
(2) システム構築プロジェクトによる人材育成
前述したように、知の統合の成果は、多くの場合、最終的にシステムという形で実 現
されている。様 々 な学 問分野に跨って形づくられる複雑 な製品やサー ビスなどのシステ
ム構築に際して、コンセプト設計の段階から考え始め、その価 値を社会 に提供するとこ
ろまで持っていくには、製品やサー ビスのすべてのライフサイクル[41]を考慮した上で、
正しいアー キテクチャの下でシステムを構築する必要がある。この一連の活動は「シス
テム構築プロジェクト」として遂行される。コンセプト設計の段階では、システムから
便宜を受ける利用者・ 顧客のニー ズ・ 要求、企業としての戦 略、エコシステムとして持
続 的に成立する条 件の見究めが重要となるため、この段階で行うビジネス分析[42]には、
ビッグデー タを活用するためのデー タサイエンティスト[43]やいわゆるビジネス分析
11

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の素養[44][45]を持つ人材が必要となる。こうしたビジネス分析と合わせてコンセプト
設計を行った上で、その成果物を経 営 層などの意思決定者に示して正しい判断 を得るこ
とが、システム構築プロジェクト
成功させ、良いシステムを実 現する鍵となる
[46
]
様 々 な学 問分野に跨る複雑 な製品やサー ビスをシステムとして構築し、社会 に提供す
るには、コンセプト設計の段階からモデルに基づく一貫性のある設計を行うことが求め
られる[41]。特に、I oTI nt ernet of Thi ngs)を活用し企業を超えた連携を積極的に行
う動き[47]や、同じ目的を持ちながら互いに独 立したマネジメントのコントロー ル下に
ある複数 のシステムを連携させる
SoS
Syst em of
Syst ems
)の動き
[48
]
に対 応 するには、
コンセプト設計が極めて重要となる。
上述のような活動を行うには、システム思考に加えて、産業ごとのドメインに特化し
た専 門性も必要であるため、ドメイン知を有する専 門家との協働 作業が必須となる。知
の統合を担う人材には、ドメイン専 門家とコミュニケー ションでき、プロジェクト全体
を統括・ 推進できる能力が要求されるため、講義等による学 習に加えて、実 際の開発 業
務に直結するプロジェクトを活用した OJT による人材育成システムが望ましい。このた
め、製品やサー ビスを開発 する企業や行政から提供された実 プロジェクトの中で、人材
の育成を図 ることがきわめて有効 である。
一方で、企業や行政側では、現実 の製品やサー ビスの開発 を手がける技術者は居るも
のの、その開発 プロセスには属 人的な側面が強 く、異なる分野の技術者を協調させ開発
業務を進めることに長けた人材は少ない。また、そのような人材の育成システムも整備
されていない。開発 プロセスを効 率的で生産性の高いものに変 革していくためには、上
に述べたアー キテクチャを設計した上で、開発 プロセス全体をマネジメントできる人材
がまた必要である。そのような人材育成を担う「学 の組織(大学 や研 究機関 )」が必要で
ある。この学 の組織は、解決すべき社会 的課題を抱える企業等から、そこで働 く技術者
の育成を兼ねて、技術者派遣を伴う課題解決プロジェクトを受託し、共同で研 究開発 を
推進し、その成果を企業等に還元すると同時に、課題解決プロジェクトに大学 院生・ ポ
スドクらを参 加させ、知の統合を実 体験 させる実 践 教 育を行う。これにより、教 育・ 研
究・ イノベー ションの三位一体の推進組織として機能させることができる。
学 の組織が企業等からの協力を得て推進するプロジェクトでは、複数 の大学 院生やポ
スドクらがドメイン専 門家と綿密なディスカッションができる体制を整える必要があ
る。そして、国 際標準であるシステムズエンジニアリングプロセス[41]に準拠 しプロジ
ェクトを実 施する。このためには、ファシリテー タを置き、プロジェクト全体の進捗状
況をモニタリングしながら、適宜アドバイスすることが求められる。その上で、プロジ
ェクトの中で、ドメイン専 門家と、プロジェクトを先導するリー ダとそれをサポー トす
る者が協働 する体制とするのが良い。このような人材育成の試行的取り組みは、慶応 義
塾大学 大学 院システムデザイン・ マネジメント研 究科など、すでに日本でもいくつかの
大学 で始まっており、このような流れを促進するための積極的な支援が必要である。
6章では、国 としてこれらを具体的に推進する新しい組織体制を詳述している。
12

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知の統合人材の評価
(1) 評価方法
大学 、公的セクター 、産業界において知の統合人材は何で評価 されるべきであろうか。
既 に述べたように、知の統合人材は特定の専 門分野の知識のみを持つだけでは務まらな
い。知の統合人材は、できるだけ広 範な複数 の異なる専 門分野について、その分野の専
門家と質の高い対 話ができる一定の見識と理解力が必要であり、ある分野の知識をその
分野の専 門家以外にも理解できるように咀嚼し、説 明できる能力、表現力が求められる。
これらは、一般的な学 術論文では測り難い能力である。現状 、多くの大学 ・ 研 究機関 等
で採用されている論文重視の評価 システムでは、知の統合人材は、正しく評価 すること
ができず、優秀な人材を埋もれさせてしまう。包括的かつ多面的な、従 来 とは異なる評
価 指標が不可欠なのである。
知の統合人材は、第一義的には、その人材が生み出した成果の社会 的・ 経 済 的価 値あ
るいはその予測値で評価 されるべきである。すなわち、知の統合の成果が使われた分野
(新しく適用された分野)での有用性で評価 されるべきである。企業であれば売 上や利
益という明確な評価 指標を採用することもできる。しかし、普遍的な知の体系化を目指
す知の統合研 究ではそのような短期的、数 値的な指標だけでは不十分であり、成果がも
たらす将 来 的な価 値まで含めて評価 する必要があり、その意味で長期的、非数 値的な指
標を加味するべきである。成果が直接的に使われた分野だけでなく、将 来 を含めた他分
野への展開性、波及効 果、相乗 効 果にも十分配慮した評価 が必要となる。それには、実
際に使われた分野(社会 のニー ズ側、市場)の実 務家・ 研 究者による専 門性の高い評価
が基礎になる。この点が、成果を産み出した技術分野(学 術のシー ズ側)の研 究者によ
るピアレビュー を基礎とする従 来 の研 究評価 や人材評価 との大きな違いである。
2つ目の評価 基準としては、成果とそれがもたらす価 値だけでなく、その成果を価 値
の創出に繋 げたプロセスを重視すべきと考える。どのデー タになぜ着目し、デー タとデ
ー タをどのように結び付けたのか、また、どのようなモデルを作成し、解析方法にどの
ような工夫を凝らしたのかも評価 する必要がある。そのような知の創造プロセスの独 創
性、斬新性はもちろんのこと、プロセスの妥当 性、柔軟性、多様 性、普遍性を評価 指標
に加えるべきである。
3つ目の評価 基準としては、知の統合研 究がプロジェクト形式で実 施される場合が多
いことから、そのプロジェクトを目的に沿って的確に、効 率よく動かしたかという視点
が必要になる。俗にリー ダシップ、プロジェクトマネジメントと呼ばれるような組織マ
ネジメント能力である。さらに、当 該プロジェクトの中で、部下や若手研 究者の能力を
どれだけ伸長させたかという指導力も評価 の対 象とすべきである。
一方で、このような非数 値的な指標だけでは、当 該人材が、将 来 仮に大学 等の研 究組
織(多くの場合、旧 来 の論文重視)に異動する際に不利な評価 に晒 され兼ねない。それ
を防ぐためには、特に成果の可視化が困難な上記の第2の評価 基準を、旧 来 の評価 シス
テムの評価 にも耐えられるようにすることもまた重要である。その点で、最近注目を集
めているデー タジャー ナル(例えば[28])、社会 的・ 経 済 的価 値の創造プロセスに焦点を
13

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当 てた評価 を標榜する学 術誌「Synt hesi ol ogy(シンセシオロジー )」[49]、横 断 的視点
に立った考察・ 論理展開や知の統合に向けた概 念・ 方法論の提案を原著論文として採択
する学 術誌「横 幹」[50]などの役割は大きいと言える。今後このようなジャー ナル等が
ますます増 え、知の統合人材の評価 環境が一層整備されることを期待したい。
無論、成果が既 存分野にもたらす変 革、新学 術領域の創成、学 術領域のパラダイム・
シフト、新事実 の発 見や新技術の創出への貢献 など、より普遍的な知の創出も重要な評
価 項目であるが、これらは学 術的な成果としても認識されるので、学 術論文として成立
しやすく、既 存の学 術誌においても正当 に評価 されるであろう。
(2) 評価システム構築
大学 、公的セクター 、産業界における知の統合人材の評価 のために、前述の3つの評
価 基準からの包括的かつ多面的な評価 を行う評価 システムを構築する必要がある。
知の統合成果が実 際に利用された分野や将 来 使われる可能性がある分野での価 値を
客観 的かつ的確に認定、計量するためには、その成果や関 連する類似の成果が、どの分
野で、どのように使われ、どのような価 値を生み出しているかのデー タベー スを構築し
ておく必要がある。デー タベー スの情報を基に評価 を行う際には、特定の利用分野の専
門家だけでなく、その成果が波及する可能性がある分野など他分野の専 門家・ 実 務家も
含めて、多角的に評価 する仕組みにする必要がある。
知の創造プロセスの評価 のためには、成果を生み出すのに使われた数 値デー タ、モデ
ル、分析方法など、何をどのように活用したのか、誰がどの部分をどのように担当 した
のか、成果に繋 がったアイデアが生まれた経 過などのメタ情報が、きちんとデー タとし
て管理され、保存され、公表されている必要がある。そのようなメタ情報のデー タベー
スも構築する必要がある。そのために、El sevi erThomson の他に、Research gat e
Googl e schol ar なども活用できる可能性がある。
組織マネジメントの視点からの評価 は、成果が使われる個別ドメインの評価 とは異な
る視点からの評価 になるので、それら個別ドメインとは独 立した評価 部門が必要である。
組織戦 略を意識した観 点で評価 するために、事業トップが関 与 する形が望ましい。
このように評価 システムには、3つの評価 軸からなる包括的かつ多面的な評価 が不可
欠である。そのような評価 システムを実 際に構築し、知の統合人材の評価 に試行的に適
用し、より優れた評価 システムに改善する仕組みも必要である。6章で提案する知の統
合推進組織はその目的にも活用できる。
(3) 評価のための具体的な提案
ここまで、様 々 な観 点から大学 、公的セクター 、産業界において知の統合を推進する
人材の役割と重要性、そのような人材を育成するための仕組みや評価 の視点について考
察してきた。明らかなことは、現在、多くの科学 技術分野で、研 究や研 究人材の評価 手
段としている確立したディシプリンに基づく評価 とは、異なる評価 システムを構築する
ことが不可欠であるという点である。その大きな方向性は[8]で既 に指摘されているよ
14

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うに、短期的な指標から長期的な指標へ、数 値的指標から非数 値的な指標へのシフトで
ある。しかし、この2つのシフトを直接的に実 現することは容易ではない。そこで本報
告では、新しい評価 システムのもとで、結果としてこれらのシフトが実 現される道を提
案する。注目して欲しい視点は、以下の3点である。
) 知の統合の推進には複数 のディシプリンの様 々 なインタラクションが必要であり、
単 一のディシプリンでの評価 では扱いきれない
) 知の統合が求める価 値は特定の専 門分野に限定された学 術的価 値ではなく、社会
に何らかの変 革をもたらす社会 的・ 経 済 的価 値であり、学 術的にはそれを生み出す方
法論としての新しい学 問分野の創出に価 値がある
) 社会 変 革をもたらす知の統合研 究は、社会 的・ 経 済 的価 値を起点とするトップダウ
ン的な研 究が主流であり、確立したディシプリンを起点とするボトムアップ的な研 究
とは大きく異なる
これらの3点を念頭に、知の統合人材の育成に資する具体的な評価 システムの構築に
関 して、以下の重要な2点を提案する。
) 知の統合推進に向けた学 術研 究分野リストの作成と更新
) 研 究成果ではなく、研 究プロセスを評価 する評価 システムの確立
現状 、研 究人材が正しく評価 されるためには、社会 に認知された学 問分野に立脚して
いることが必要であるが、このことが、複数 学 問分野の「知」を統合するための新しい
学 問「知の統合学 」の分野で、人材の評価 を難しくしている。そこで、これまでの長い
歴 史を経 てディシプリンを確立してきた既 存の学 問分野の分類に適したこれまでの科
学 研 究費補助金の分科細目表とは独 立に、今後、新しい学 問分野として期待される学 問
分野の表を作成し、それを頻繁に(できれば毎 年)更新していく委員会 を設置する。学
問分野
の作成・ 更新に当 たっての重要なポイントは、
将 来 を見据えた
可能性・ 期待感
に基づく学 問分野の抽出」と「社会 的・ 経 済 的価 値を起点とするトップダウン型思考か
らの導出」である。前者の例としては、人間社会 と自然の調和、伝 統文化と先端技術の
調和、個人の価 値と社会 の価 値の調和、短期目標と長期目標の調和など、様 々 な切り口
からの「調和」をキー ワー ドとする新しい学 問分野が考えられる。一方、後者の例とし
ては、環境・ エネルギー ・ 交通・ 医 療といった社会 的課題を個々 に扱うのではなく、相
互に適切に絡ませて統合的に解決するシステムズ・ アプロー チが挙 げられる。すなわち、
確立した学 問分野からボトムアップ的に構築されてきた歴 史を持つこれまでの分科細
目表とは対 照的な学 問分野表の作成・ 更新である。
知の統合推進の方向性は固定されたものではなく、1つの展開が新たな展開を生む連
鎖が重要であり、また社会 的・ 経 済 的な環境の変 化にも柔軟に対 応 していくところに価
値が生まれる。したがって、研 究の成果よりも、その創造プロセスを適切に評価 してい
くことが知の統合の推進に大きく貢献 する。具体的には、
プロジェクト研 究での各研 究
人材の役割を評価 する具体的評価 項目の作成」と「知の統合に向けた学 術の評価 で重要
となる発 展性・ 相乗 効 果・ 波及効 果、並びに知の創造プロセスの柔軟性・ 多様 性・ 普遍
性に関 する評価 法の確立」である。
15

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知の統合の推進体制
(1) 知の統合を推進する学術の確立
知の統合学 は、より高次元の学 問体系としての「知の統合のための設計論と構成論の
確立」と「知の統合による実 問題の俯瞰的解決法」を目指す学 問であることから[51]
知の統合学 の確立には、次の「方法論とツー ル」、並びに統合を実 現する「場」を必要と
する。
) 解決すべき課題の認識・ 把握並びに俯瞰的課題解決のための方法論とツー ル
) 設計・ 構成のための方法論とツー ル
) 新しい科学 技術を発 見するための方法論とツー ル
知の統合学 の開拓は緒 に就いたばかりである。その確立のためには、既 知なものと未
知なものを明確にし、未知なものについては Open Probl em として提起し広 く方法論と
ツー ルを募り、現実 の課題に適用して、その有用性を検 証し、改善を図 るなどして、い
わば「知の統合学 大全」の目次を作り上げることから始める必要がある。
異なる学 術分野を跨いだ基本概 念の互換性の確立[1]と、社会 的課題の俯瞰的かつ普
遍的な解決[2]は、社会 で稼働 している様 々 なドメイン別システム(エネルギー ・ 環境、
社会 インフラ、防災とリスク、食糧確保、地域再生など)のドメイン知と、ドメインに
依存せずに適用可能な分野横 断 知(システム理論、モデリング、機械学 習、最適化、制
御、統計学 、予測、システム構築方法論、ネットワー ク、複雑 系、サー ビスシステム、
社会 システム、価 値システムなど)との出会 いの場で図 られる。特定ドメインのシステ
ム構築に有効 な知は、分野横 断 知を媒介として、他のドメインのシステム構築にも有効
となる。
知の統合が扱う課題は複数 の科学 、広 範なドメインに跨る問題であり、知の統合学 を
開拓するには、分野横 断 的な知の専 門家とそれを適用する個別ドメインに関 する知の専
門家との間で認識の共有が必要であり、分野横 断 知とドメイン知の統合による新たな価
値創出の枠 組みが求められる。このため、国 にとしても社会 を構成する諸因子(認識科
学 、設計科学 、行動者、社会 環境)の間の連携・ 協働 を推進する組織体制が必要となる。
(2) 推進組織が持つべき機能、あるべき姿
知の統合を推進する組織体制として如何なるものが望ましいのか、本分科会 等では付
録 2「システム科学 研 究所構想ついて」[52]に示された統合知システム研 究所構想をた
たき台として検 討を行った。同構想では、研 究所の目的を以下のように定めている。
) 統合化・ システム化を図 る新しい科学 技術を創出し、イノベー ション力を高める
) 共通に活用できる知の統合プラットフォー ムを形成し、その上で新たなシステム
構築プロジェクトを実 行する
) プロジェクトの中で知の統合人材を育成する
そして、その目的達成のための機能として、①システム科学 研 究の深化と統合、②シ
ステム構築の価 値認識と評価 、③システムの実 装・ 運用・ 保守の体系の確立の3点を掲
げ、これらの機能を担う組織体制として、図 2に示す3ユニット(システム構築連携支
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援センター
統合化システム研 究部
システム科学 研 究部
、クロスアポイントメント制
の研 究員 10 名程度からなる組織を提案している。本分科会 等の議論で、これは知の統合
推進のために有効 な組織モデルであるとの結論を得た。
Image_50_0
図2 統合知システム研究所の組織体制と機能(出典[52]
図 2において、システム構築連携支援センター は、産業界や行政との連携・ コンサル
ティングの窓口として、個別の企業や行政と共に解決すべき課題を認識、発 掘・ 同定し、
統合化システム研 究部に引き継 ぐと共に、統合化システム研 究部での研 究成果(課題解
決策を具現化したテストベッド)を産業界・ 行政の利用に供与 し、共に社会 実 装に繋 げ
るプロジェクトを推進する役割を担う。統合化システム研 究部は、具体的な社会 的課題
に対 して、システム科学 部で育んだ知の統合学 の知識や方法論・ ツ-ルを駆 使して異分
野の知を統合し、課題を解決する仮想的なシステム(テストベッド)を構築、評価 ・ 検
証を行い、システム構築連携支援センター に引き渡す役割を担う、いわば推進組織の中
核部門である。また、様 々 なステー クホルダー が共通に利用可能な知の統合プラットフ
ォー ムの構築・ 整備など、システム構築連携支援センター の後方支援機能の役割を果た
す。知の統合プラットフォー ムの構想例[53]を付録 3に示す。システム科学 研 究部は、
ドメイン知や分野横 断 知に関 する国 内 外の学 術組織と連携して、統合化システム研 究部
で個別課題の解決の際に生み出された分野横 断 知の共通性、異質性を峻別し、適用ドメ
インに依存しないメタ知識としての知の統合学 を確立するとともに、メタ知識を様 々 な
ドメインに適用する際に使える方法論・ ツー ルを開発 し、知の統合知識ベー スとして整
備することで、統合化システム研 究部の活動を支援する基盤を構築する。
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なお、本分科会 等の議論の中では、
) 実 システムを作る方法論・ ツー ルの開発 、コンサルティングのあり方に関 する検 討
) システム構築の理論や技術の深化
) 新しい人材評価 システムの構築と試行
の3点が重要であることを確認し、加えて統合化システム研 究部やシステム構築連携支
援センター が機能することで、既 存の研 究所との差異化が図 れると考えている。
(3) 推進組織の体制と運営
知の統合は、社会 のための科学 を具現化し、国 民に対 して科学 技術の存在価 値を実 感
させるものでなければならない[1]。そのため国 レベルで設置を検 討すべき新たな推進
組織のミッションとして、以下の3点を掲 げる[2][3]
) 認識科学 と設計科学 の連携を図 り、社会 の持続 的発 展に繋 がる具体的な社会 的課
題に対 して、知の統合による課題の認識・ 把握・ 解決を目指すプロジェクトを立ち
上げ推進し、その成果を社会 実 装してイノベー ションや新たな産業の興隆につなげ
) 上記システム構築プロジェクトを通して、新たな分野横 断 知・ 方法論・ ツー ルの
創造・ 開発 を推進し、新たに生起する社会 的課題の認識・ 把握・ 解決にも適用可能
な知の統合プラットフォー ムの構築により、学 際的・ 統合的・ 俯瞰的な学 術体系
「知の統合学 」を確立する
) 産業界、行政、並びに学 術界における知の統合人材を育成する
前述のように、社会 的課題解決の多くは必然的にシステム構築を媒介とした知の統合
研 究となり得る。実 際の社会 的課題の認識・ 把握・ 解決には、知の統合の概 念が必要不
可欠である一方、課題解決の過程そのものが、知の統合の学 問的発 展に寄与 する。すな
わち、課題の認識・ 把握・ 解決を図 るシステム構築プロジェクトを数 多く推進すること
により、その過程で生まれ、有用性が検 証された個別の方法論・ ツー ルの共通性と異質
性を峻別することで、分野横 断 知を同定し、知の統合に必要な方法論を導出できる。一
方で、知の創出だけでは社会 的・ 経 済 的価 値に繋 がらない。知の統合の成果を、産業を
通して継 続 的に社会 に価 値提供する社会 実 装が同時に必要であり、そのためにはそれぞ
れの立場で社会 に接する産業界や行政との連携が必須となる。このシステム構築プロジ
ェクトを研 究者や専 門家だけに任せるのではなく、学 生や実 務家と協力して、共にプロ
ジェクトを推進することで、彼らの柔軟な発 想やドメイン知の取り込 みと人材育成が同
時に可能となる。
したがって、この推進組織は、必然的に、①異分野の研 究者・ 専 門家・ 実 務家が結集
する場、②知の統合の基礎研 究、応 用研 究、開発 研 究、実 践 研 究の場、③産官学 連携の
場、そして④学 生の教 育や実 務家の再教 育の場、という複数 の機能を併 せ持つことにな
る。
推進組織の構成よりも、さらに重要なポイントは、このように多様 なミッション・ 機
能をもつ組織を運営 する上での困難を如何に克服するかである。具体的には、
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) 優秀な異分野の研 究者・ 専 門家・ 実 務家を国 内 外から結集しやすい仕組み
) 異分野の研 究者・ 専 門家・ 実 務家が、互いに多様 性を積極的に受容し、実 践 活動
や研 究生活を心地よく推進できる仕組み
など、従 来 イメー ジの「研 究所」とは異なる新たな組織運営 を検 討する必要がある。
)については、人材 流動性の困難を排除しつつ、国 内 大学 の研 究者だけでなく、海外
大学 、内 外の研 究機関 、行政、企業等から異分野の多様 な人材を集めやすく、同時に組
織の硬直化を防ぐため、クロスアポイントメント制度の活用を促す。一人の研 究者・ 専
門家・ 実 務家はいずれかの組織を本籍地として所属 し勤務しながら、同時に他の組織に
も所属 して実 際に勤務し、複数 の組織から給与 等を受ける仕組みである。ただ複数 の組
織に所属 し、日々 勤務組織が変 わるだけで、各組織で果たすべき仕事量が従 来 と変 わら
ず、給与 も増 えないなら、結果的に過重労 働 となるだけで良い成果は期待できない。制
度利用者が不利にならない、むしろ何らかの恩恵 を享受できるような制度が必要である。
本籍地での身分・ ポストの保証や勤務時間・ 給与 ・ 退職金・ 年金等の勤務条 件だけでな
く、複数 勤務地間を移動する経 費・ 労 力、遠隔地勤務となる場合の宿舎 ・ 子育て・ 介護
等の支援などにも十分配慮した制度設計が望まれる。これらの制度設計に当 たっては、
東京大学 国 際高等研 究所カブリ数 物連携宇宙研 究機構(Kavl i I PMU)などの先駆 的取組み
が参 考になる。
)については、研 究者が異分野間の文化の違いを乗 り越えるため、交流や対 話が行い
やすい施設環境や支援体制・ 制度が不可欠である。推進組織の中では、研 究成果や研 究
人材の評価 に際して5章で述べた新たな評価 システムを適用し、知の統合研 究や知の統
合人材を正当 に評価 することで、心地良い環境を整えるとともに、多様 な人材に統合活
動へのモチベー ションを与 える。同時に評価 システム自身の「適切性」「妥当 性」を検 証
し、改善につなげる PDCA を回すことが必要になる。また、推進組織の内 部でも、一人の
研 究者、専 門家、実 務家は、システム構築連携支援センター 、統合化システム研 究部、
システム科学 研 究部のいずれか1つだけに所属 するのではなく、1つの部門を本籍地と
しつつも同時に他部門に所属 し、複数 部門の仕事を同時並行的に遂行するものとする。
いわば推進組織内 でのクロスアポイントメント制である。こうすることで、人事の硬直
化を防ぐだけでなく、推進組織内 部でも異部門間の知の交流が自然に進む組織運営 を行
い、異分野間の横 断 的な結びつきを促進する仕組みとする。
19

Page 26
まとめ
日本学 術会 議内 で知の統合に関 する議論が始まって既 に 10 年以上が経 過した。海外に
おいても数 年前から Convergent Research の名の下で知の統合と同様 な議論が始まり、欧
米ではイノベー ションに繋 がる重要な研 究領域と位置付けられ、その支援に向けて巨大フ
ァンドの研 究開発 投資や推進のための組織作りが急ピッチで始まっている。これに引き換
えわが国 では、この分野の重要性を世界に先駆 けていち早く気 づき、日本学 術会 議の中で
議論を始めてきたにも拘わらず、その検 討の成果が、直接、国 の高等教 育政策や科学 技術
政策、さらには産業政策に結び付くことはなく、今まさに後発 の欧 米に追い越されようと
している。
具体的施策に至っていない最も大きな要因は、様 々 な意味で「縦 割り思考」の強 い日本
の文化にあると考えられる。世界に先駆 けた議論を生かし、「知の統合人材」の育成を通し、
社会 的課題解決に向けた「知の統合」を実 現していくためには、この認識を共有すること
が不可欠であり、既 存の学 問分野の枠 をはるかに超えた「分野横 断 的枠 組み」の導入によ
る具体的施策や組織化の検 討が急務と言える。
このような危機感を背景に、本報告では知の統合に関 連するこれまでのわが国 での議論
をレビュー し、特に検 討が不十分であった人材育成、人材評価 に焦点を当 てた議論を展開
し、① 知の統合を担う人材を育成するための教 育、② 知の統合に関 連する学 術研 究の確立、
③成果の社会 実 装を通じたイノベー ションの推進の3つを、三位一体で同時に推進する組
織体制とその運営 方法について、具体的な構想案として「統合知システム研 究所」を提案
した。
本報告は、主に理工学 分野の学 部・ 大学 院教 育に焦点を当 てての検 討をまとめたもので、
ここでの検 討内 容は総 合工学 委員会 で議論している提言案『社会 的課題に立ち向かう「総
合工学 」の強 化推進』の作成にも役立ち、同提言案では総 合工学 の4つのカテゴリー 毎 の
研 究評価 と人材育成に関 する提言の重要なポイントとして活かされている。しかし、当 然
のこととして、ここでの検 討は人文・ 社会 科学 を含むすべての分野に適用可能であり、幅
広 い分野横 断 的視点での今後の大きな展開を期待したい。特に、大学 、行政(内 閣府、文
部科学 省、経 済 産業省、総 務省、国 土交通省、厚生労 働 省など)、研 究助成機関 、産業界等、
科学 技術に関 連するすべてのステー クホルダー がこの危機感を共有し、わが国 においても
緊急に具体的な強 化・ 振興策を策定し、これを実 行して、欧 米に先んじて成果を挙 げ、科
学 技術の果実 を国 民に還元できる状 況を産み出したいと切に願う。
時あたかも、第 3期教 育振興基本計画(平成 3034 年度)の検 討が開始された[54][55]
これから大変 革するであろう 2030 年以降の社会 の変 化を見据えて、次の5年間の日本の
教 育・ 人材育成のあり方を決めようとするものである。学 問領域を超えた知の統合の重要
性・ 必要性が益々 高まっていくことは疑いない。第3期教 育振興基本計画 においても、知
の統合人材の育成が重要な柱となることが強 く望まれる。
20

Page 27
<用語の説明>
(出現順)
横断型基幹科学技術(横幹科学、横幹学)
論理を規範原理とし、自然科学 、人文・ 社会 科学 、工学 などを横 断 的に統合することを
通して異分野の融合を促し、それにより新しい社会 的価 値の創出をもたらす基盤学 術体系
である。たとえば、社会 、人間、環境、生命、経 営 、組織マネジメントなどを扱うために
生み出された、統計学 、シミュレー ション学 、最適化手法、情報学 、設計学 などの学 術体
系である。(出典: 横 幹連合 HPht t p://www.trafst .j p/ai ms.ht ml
知の統合
異なる研 究分野の間に共通する概 念、手法、構造を抽出することにより、それぞれの分
野の間での知の互換性を確立し、それを通じて、より普遍的な知の体系を作り上げること。
(出典:[1][51]
認識科学
真 理の発 見、現象の把握など、「あるものの探究」を主な目的として発 展してきた従 来 の
科学 。対 象は、自然、生命、人間、社会 など。
設計科学
人間や社会 のために、一定の目的と価 値の実 現を目指す「あるべきものの探求」を主な
目的とする知の営 み。対 象は人工物システムとなる。認識科学 を縦 糸とすれば、設計科学
はそれらを結びつける横 糸である。(出典:[56]
知の統合研究(知の統合型研究)
異なる研 究分野の間の連携により知の統合を推進し、社会 的・ 経 済 的価 値を生み出す研
究。多くの場合、地球規模の社会 的課題を認識・ 把握・ 解決するプロジェクト研 究となる。
統合の科学
人類の存続 ・ 発 展を可能とし、精神的・ 物質的に調和のとれた幸福な人間社会 を実 現す
るため、具体的な研 究領域において諸科学 (文理)の連携、協働 を進め、蓄積しつつある
地球規模の課題を認識・ 把握・ 解決するのに有効 な知を体系化したもの。「持続 可能な社会
構築の科学 」、「安全の科学 」などが代表例。(出典:[3]
利用知
自然科学 や人文・ 社会 科学 の成果として、自然や人間、社会 など、対 象の認識を目的と
した知識を「対 象知識(対 象知)」というのに対 して、その得られた対 象知識を積極的に利
用して、人間が豊かにかつ幸福に生きるために用いられる知識を「利用知識(利用知)」と
いう。代表的なものは、工学 、農学 、薬 学 、医 学 などの学 問分野を形成している知識であ
21

Page 28
る。
コト
「コト」は「モノ」との比較において語られる価 値概 念である。モノが実 体として目に
見える物質であり、その所有に起因する価 値であるのに対 して、コトは目に見えない経 験
や体験 、思い出、人間関 係、サー ビスなどの事象であり、感覚 ・ 感情・ 情緒 に起因する価
値である。市場経 済 が十分成熟し、金銭 的余裕さえあれば必要なモノはほとんど自由に手
に入る先進諸国 において、人々 の関 心はモノの所有欲を満 たすことから、コトを経 験 する
ことから生まれる満 足に移行していると言われている。
知の統合学(Consilienceology
人文・ 社会 科学 、自然科学 、設計科学 ないしは創造科学 を横 断 的に俯瞰し、知の統合の
ための方法論と方策を明確にし、その体系化をはかるとともに、知の統合を実 践 してゆく
ための科学 。また、メタな学 問体系としての「知の統合のための設計論と構成論の確立」
と「知の統合による実 問題の俯瞰的解決法」を目指す学 問との定義もある。(出典:[9][51]
知の統合プラットフォーム
社会 を構成する人間・ 生態系・ 環境・ 人工物を、機能の面から捉え、モデル化し、シミ
ュレー ションを通して予測して、それに基づいて意思決定し行動することを可能とすると
ともに、
VR
(Vi rt ual Real i t y)
などの高度のヒュー マンインタフェー スにより現実 世界に
結び付けられたインタラクティブなバー チャル空間である。これにより解決すべき課題の
認識・ 把握・ 解決や新たな創造の方法や方策が明らかになり、またその方法や方策が、政
治家、官僚、産業人、市民といった多様 なステー クホルダー や当 事者が参 加するかたちで
評価 可能となる。(出典:[29]
ブダペスト宣言
ユネスコと国 際科学 会 議(I CSU)のもとに、1999626 日から 71 日までの間、ハ
ンガリー のブダペストで開催された「21 世紀のための科学 :新たなコミットメント」世
界科学 会 議で採択 された「科学 と科学 的知識の利用に関 する世界宣言」のこと。知識のた
めの科学 :進歩 のための知識、平和のための科学 、開発 のための科学 、社会 における科学
と社会 のための科学 の4項目から成る。(出典:文部科学 省 HP
ht t p://www.mext.go.j p/b_menu/shi ngi /gi j yutu/gi j yut u4/si ryo/at t ach/1298594.ht m
目的基礎研究
新たな知の創造を担う研 究活動は、一般に、「基礎研 究」、「応 用研 究」、「開発 研 究」に
区 分され、この区 分が研 究に関 する施策や関 係統計に使われているが、第3期科学 技術基
本計画 以降、「基礎研 究には、研 究者の自由な発 想に基づく研 究と、政策に基づき将 来 の
応 用を目指す基礎研 究がある」とされている。この中で、前者のどんな応 用ができるかわ
22

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からないが新しい現象や知識の探究を純粋 基礎研 究、後者の特定の目的に役立てるため現
在不明な点の穴埋めをする研 究を目的基礎研 究という。
目的基礎研 究は、将 来 の産業・ 経 済 の持続 的な発 展に大きく寄与 するもので、出口を
明確にし、イノベー ション創出を目指すものである。(出典:総 合科学 技術会 議基本政策推
進専 門調査会 資料、ht tp://www8.cao.go.j p/cst p/t yousakai /sui si n/hai hu13/si ryo3-
1.pdf
イノベーション・エコシステム
多種多様 な関 係者(企業、研 究機関 、政府等)が自律的に活動し、かつ競争 と補完関 係
の中でイノベー ションの創出を加速していく様 子を生態系(エコシステム)に準えたもの
である。また、その形態は一律のものではなく、地域や属 する経 済 圏 特有の資源を活用し
ながら自律的発 展性を持つものと考えられている。(出典: みずほ情報総 研 HP
ht t ps://www.mi zuho-i r.co.j p/publ i cati on/col umn/2011/1227.ht ml
要素研究
製品やシステムを形成している個々 の要素に関 わる技術的な研 究のこと。システム研 究
の反対 概 念。
データジャーナル
オリジナル論文の発 表を中心とした分野別の学 術研 究のこれまでの成果発 表の方法に
加えて、デー タ生産者が分野を超えて連携して、オリジナル論文に埋め込 んだデー タや論
文投稿時に棄却した高品質のデー タを学 術の成果として集積するための新たな場として発
刊され始めた学 術雑 誌。(出典: 日本学 術会 議 HP
ht t p://www.scj .go.j p/j a/i nfo/kohyo/pdf/kohyo-22-h140930-3.pdf
ビッグデータ
近年の I CT(情報通信技術)、特にセンサー の飛躍的発 展によって、地球物理、気 象、
地震、天文、生命科学 、マー ケティング、ファイナンスなど多くの研 究分野や社会 で出現
した大量・ 大規模のデー タ。ある事象に関 する非常に多数 の多種多様 な要因デー タが得ら
れるようになったことが本質で、これによって大きな可能性が開けた反面、従 来 の方法で
は解決できない新しい課題を生み出している。(出典:[29]
データサイエンス
ビッグデー タの活用の統計学 と先端計算技術が融合した新たな学 問領域であり、散在
するデー タを処 理するためのビッグデー タ処 理技術(分散処 理、並列処 理、デー タベー
ス、クラウド計算など)、膨大な高次元デー タや計算結果を人間が把握できるようにする
ためデー タ可視化技術(次元圧 縮、特徴 抽出、画 像処 理など)、ビッグデー タからの価 値
ある深い知識獲得のためのデー タ解析法(統計学 、機械学 習、デー タマイニング、最適化
23

Page 30
など)を主たる要素技術とする。(出典:[29]
データサイエンティスト
ビッグデー タの活用に不可欠な3つの要素的な技術(ビッグデー タ処 理技術、デー タ可
視化技術、デー タ解析法)を習得し、さらに研 究戦 略立案能力、コミュニケー ション能力、
研 究倫理などのデー タリテラシー を備えた人材。このような人材の育成にあたっては、方
法論の習得と領域の知識と経 験 が重要で、結果的に T 型、Π 型の人材となる。本提言では、
デー タサイエンティストは従 来 の St ati st i ci an(統計家)や Deep Anal yt i cal Tal ent(統
計、機械学 習、デー タマイニング、最適化などを駆 使できる人)の発 展形と捉えている。
なお、Deep Anal yt i cal Tal ent という名称 にはやや違和感があるが、ビッグデー タから従
来 の情報処 理以上の Deep knowl edge の獲得を目指すという意味が込 められていると考え
られる。(出典:[29]
スキル標準
特定の職務の遂行に必要とされる能力を明確化・ 体系化した指標で、特定の職能団 体等
により定められることが多い。
PBLProject-Based Learning
プロジェクトを通した実 践 的な学 びを得ることであり、グルー プで現実 的な課題を認
識・ 把握・ 解決するためのプロジェクトに取り組むこと。課題に対 処 する中で自ら学 び取
ることができる。
システム統合
情報システムの分野では、複数 の情報システムを1つのシステムに再編成する概 念とし
て使われることが多いが、本報告ではより一般的に、複数 の異なる要素を互いに有機的に
結合し、全体として所与 の目的を達成するよう「システムとして統合する」の意味で使用
している。「システム化」、「システム構築」とほぼ同義語。
システム科学技術
システムを正確に解析し望ましいシステムを構築・ 管理するための科学 的な基盤と、そ
れを達成するための技術的な手法の総 体。(出典:[37]
システムアーキテクチャ
システム要素とそれらの関 係性の中で具体化された、ある環境中のシステムの基本概 念
または特性であり、またシステムを設計し進化させるための原則のこと。(出典:
I SO/I EC/I EEE 42010 HPht t p://www.i so-archi t ect ure.org/i eee-1471/
24

Page 31
システム構築プロジェクト
複雑 な製品やサー ビスなどのシステム構築に際して、コンセプト設計の段階から考え始
め、その価 値を社会 に提供するまでの一連のプロジェクト活動のこと。システムの廃 止や
他のシステムによる代替まで含めて考えることが多い。
コンセプト設計
ミッション分析またはビジネス分析を元に、企業体のミッション要求またはビジネス要
求を定義し、さらに利害関 係者を特定した上で、利害関 係者のニー ズと要求を定義する中
で開発 しようとする対 象システムの運用を考慮し、システムおよび主要なシステム要素を
構想すること。いくつかの候補となる構想の中で、技術的な準備レベルやリスク、実 現可
能性、価 格的な配慮などを評価 し、運用以外のライフサイクルを検 討しておく必要がある。
(出典:[41]
ビジネス分析
組織の構造とポリシー および業務運用についての理解を深め、組織の目的の達成に役立
つ解決策を推進するために、利害関 係者間の橋渡しとなるタスクとテクニックの集まり。
(出典: I I BAR日本支部 BABOKR翻訳 プロジェクト(監訳 ),ビジネスアナリシス知識体系ガ
イド(BABOKRガイド)Versi on 2.0I I BAR日本支部,200981 日)
IoTInternet of Things
インター ネットを通じてモノ同士がつながること。特に、あらゆるモノがインター ネッ
トを介してつながることを意味する場合が多い。
SoSSystem of Systems
必ずしもライフサイクルステー ジ全体に渡ってマネジメントすることができるとは限
らない個々 のシステムを構成要素とし、これらの構成システムによって成り立つ一段上位
のシステムを意味する。
ドメイン知
分野横 断 知の反対 概 念。旧 来 の縦 割りの特定の学 問分野あるいは特定のシステムドメイ
ンの中で生まれ、使われている固有の知識群のこと。
システムズエンジニアリングプロセス
I SO/I EC/I EEE 15288 で定義される合意プロセス、組織的プロジェクト実 現プロセス、
技術マネジメントプロセス、および技術プロセスから成る。システムの全ライフサイクル
ステー ジにわたりシステムズエンジニアリングを計画 通りに QCD を守って進めるために
は、これらのプロセスを適切に実 施する必要がある。(出典: Syst ems and soft ware
engi neeri ng -- Syst em l i fe cycl e processes,
25

Page 32
ht t p://www.i so.org/i so/cat al ogue_detai l ?csnumber=63711
プロジェクトマネジメント
プロジェクトの目標達成に向けて、具体的に計画 し、目標達成までの期日や費用、目
標とする品質を明確に定義し、作業を進めていくためのプロセスやツー ル、技法などを適
用すること。 (出典: A Gui de to t he Proj ect Management Body of Knowl edge (PMBOKR
Gui de)
?
Fi ft h Edi t i on
Proj ect Management I nst i t ut e
2013,
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分野横断知
自然科学 や人文・ 社会 科学 と言った従 来 の縦 割りの学 問分野(工学 分野で言えば電気 、
機械系、化学 ・ 材料系、建築・ 土木系、生命系等など自然科学 の知識の上に成立している
分野)とは異なる人工的な原理で生まれ、これら縦 型学 問分野のいずれにおいて分野横 断
的に使うこと可能な知識群のこと。数 学 、モデル、システム、統計、最適化、制御、設計
学 などが代表例。
統合化技術
顧客や社会 のニー ズに合わせて、実 在する様 々 な機器・ 部品、ソフトウェア、デー タ、
制度などの中から、最適なものを選択 し、最適な組合せで、所与 の目的を実 現するシステ
ムを構築するのに用いられる技術群。
Transformative Research
米国 科学 財団 (NFS)が打ち出した研 究のカテゴリー で、既 成概 念や既 存の研 究分野に変
革をもたらす可能性の高い研 究のこと。(出典: 日本学 術振興会 HP
ht t ps://www.j sps.go.j p/j -bi l at/u-kokusen/forei gn/washi ngton-h1804.ht ml
バーチャル・ユニバース
社会 を構成する人間・ 生態系・ 環境・ 人工物などの機能面に着目し、その機能を、モデ
ル化、シミュレー ション、予測、意思決定などのツー ル群と VR (Vi rt ual Real i t y)などの
バー チャル技術や先進的ヒュー マンインタフェー スを組み合わせて代替し、コンピュー タ
やネットワー ク上に、まるで物理的に実 在する世界であるかのように思わせる仮想的空間
のこと。
e-サイエンス
計算機技術やそれに基づくインフラの上で、一連の探求から成果発 表までを行う科学 的
方法論の総 称 である。そこでは、探求を行うために必要な種々 の準備や実 験 、デー タ収 集、
成果の普及、探求の過程で生成されるあらゆる資料デー タの長期保管やアクセスが、計算
機技術を用いて実 現される。より具体的な形態としては、計算機を用いた科学 的デー タベ
26

Page 33
ー ス、デー タモデリング、シミュレー ション解析、デジタル実 験 室、電子的実 験 ノー ト、
論文・ 報告書作成、電子的成果発 行など、あらゆる電子化された科学 的研 究活動を指す。
(出典:[29]
データ中心科学
I CT の急速な発 展に伴って利用可能となった大規模・ 大量デー タ(ビッグデー タ)を活
用した、研 究や技術・ サー ビス開発 のための科学 的方法論。I CT をフルに活用した、帰 納
的(デー タ駆 動型)な方法と位置づけられる。(出典:[29]
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Page 39
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平成 27
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分科会 ・ 小委員会 の設置、公開シンポジウム企画 案
5月7日 工学 基盤における知の統合分科会 (第1回)
趣旨説 明、役員選出、今期活動方針、小委員会 の設置
11 28 工学 基盤における知の統合分科会 (第2回)
公開シンポジウム企画 案確認、小委員会 の活動計画 報告
11 28 総 合工学 委員会 工学 基盤における知の統合分科会 公開シンポジウム開催
12 23 知の統合推進小委員会 (第1回)
役員選出、委員追加、今後の進め方、フリー ディスカッション
平成 28
1月6日 総 合工学 委員会 (第3回)
公開シンポジウムの開催提案、分科会 活動報告
2月 19 知の統合推進小委員会 (第2回)
知の統合の推進体制についてアイデア出し
3月 10 日~3月 17 総 合工学 委員会 (第4回)(メー ル審議)
公開シンポジウム開催計画 承認
4月 19 知の統合推進小委員会 (第3回)
知の統合の推進体制についてアイデアの整理と選択
6月 17 知の統合推進小委員会 (第4回)
知の統合の推進体制について骨子案検 討、確認
7月 20 総 合工学 委員会 (第5回)
分科会 活動報告
7月 20 総 合工学 委員会 公開シンポジウム開催
11 月7日 知の統合推進小委員会 (第5回)
報告案『知の統合の推進体制について』の検 討、承認
12 月2日 工学 基盤における知の統合分科会 (第3回)
報告案『「知の統合」の人材育成と推進』の検 討について
平成 29
3 16 日~21 工学 基盤における知の統合分科会 (第4回)(メー ル審議)
報告(案)『「知の統合」の人材育成と推進」』の承認について
8 17 日本学 術会 議幹事会 (第 250 回)
報告『「知の統合」の人材育成と推進」』について承認
33

Page 40
<参考資料2> シンポジウム開催
1.公開シンポジウム
「先端学 術分野におけるシステムズ・ アプロー チの進展と課題」
主催:総 合工学 委員会 工学 基盤における知の統合分科会
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共催:横 断 型基幹科学 技術研 究団 体連合
日時:平成 271128 (土)13301800
場所:日本学 術会 議 講堂
開催趣旨:
知の統合の重要性は日本学 術会 議でもしばしば指摘され、学 術会 議における学 問論
の主要なテー マとなってきた。しかし、その理念的な深まりはまだ不十分であり、そ
れを推進する具体的な方策は依然として手探りの状 態にある。一方、現在各先端分野
で同時進行しつつあるシステムズ・ アプロー チの進展は、「システム」の概 念を通じて
知の統合が進展する可能性を示唆しており、知の統合を媒介する理念的な枠 組みを与
えることが強 く期待される。
システムズ・ アプロー チの進展は幅広 い分野で見られる。例えば、生物学 の主流に
なりつつある「システム生物学 」、新しい研 究グルー プが創設された「システムナノ技
術」、新学 術領域「システムがん」などである。これらの近年の成果を受け、環境・ エ
ネルギー ・ 医 療など様 々 な社会 的課題を総 合的に解決するためには、それぞれのシス
テムを総 合的かつ系統的に捉える SoS (System of Systems) の視点とそれを具体的
に実 現するためのプラットフォー ムの構築が重要となってきているが、この方向性は
正に「知の統合」が目指してきているものである。
システム化の波やその役割は分野によって異なるし、分野における視方も異なるが、
知の互換性という視点での共通点は多い。各分野でのシステム化による具体的な成果
とその将 来 動向を持ち寄り、その共通の課題と分野相互の協調の可能性を探ることは、
知の統合をモメントとした学 術の再編成の視点から現時点で大きな意味がある。本シ
ンポジウムはシステム化の進みつつある諸分野の研 究者を一堂に集め、その成果と課
題について共通の場で語っていただき、知の統合の推進役を担うシステム科学 技術の
将 来 の方向性を展望する。
プログラム
1330 開会 の辞 渡辺 美代子(日本学 術会 議第三部会 員、総 合工学 委員会 委員
__rendered_path__80
長、国 立研 究開発 法人科学 技術振興機構執行役)
__rendered_path__92
1335 主催者挨拶 花木 啓祐(日本学 術会 議副会 長、東京大学 工学 系研 究科教
授)
<講演:各分野におけるシステムズ・ アプロー チ>
1345 「健康リスク制御のシステム科学 技術」
山本 義春(東京大学 大学 院教 育学 研 究科教 授)
1415 細胞内 シグナル伝 達のシステムズバイオロジー
34

Page 41
黒 田 真 也(東京大学 大学 院理学 系研 究科教 授)
1445 持続 的農業生産を支える情報システム
二宮 正士(東京大学 大学 院農学 生命科学 研 究科
15151530 休憩
1530 「複雑 系と社会 学 」
今田 高俊(日本学 術会 議連携会 員、東京工業大学 名誉 教 授)
1600 「システム思考から生まれるロボット制御の新しいパラダイム」
下田 真 吾(理化学 研 究所研 究員)
16001620 休憩
<パネル討論:システムズ・ アプロー チの進展と課題>
16:20 ? 17:50
(司会 )木村 英紀(日本学 術会 議連携会 員、早稲 田大学 理工学 術院研 究招聘教 授)
(パネラー )
北川 源四郎 (日本学 術会 議第三部会 員、情報・ システム研 究機構 機構長)
舩 橋 誠壽(北陸先端科学 技術大学 院大学 シニアプロフェッサー )
西村 秀和(慶應義塾大学 大学 院システムデザイン・ マネジメント研 究科教 授)
山本 義春(東京大学 大学 院教 育学 研 究科教 授)
今田 高俊(日本学 術会 議連携会 員、東京工業大学 名誉 教 授)
1750 閉会 の辞 辰次日本学 術会 議連携会 員、工学 基盤における知の統合
分科会 委員長、東京大学 大学 院情報理工学 系研 究科教 授)
__rendered_path__137
1800 閉会
35

Page 42
2.公開シンポジウム
「総 合工学 シンポジウム 2016
知の統合を如何に達成するか
?
総 合工学 の方向性を探る
?
日時 平成 28 年7月 20 日(水) 13:0017:00
場所 日本学 術会 議講堂
主催 日本学 術会 議 総 合工学 委員会
ht t p://www.scj .go.j p/j a/event /pdf2/229-s-3-3.pdf
プログラム
開会 挨拶
花木 啓祐 (日本学 術会 議副会 長・ 東京大学 大学 院工学 系研 究科教 授)
第Ⅰ部
【基調講演】 構成科学 としての工学 (設計科学 )
吉川 弘之 (日本学 術会 議栄 誉 会 員・ JST 特別顧問)
知の統合と知の統合学 をめざして
(東京大学 名誉 教 授)
情報学 から見た工学 分野の融合について
喜連川 (日本学 術会 議会 員・ 国 立情報学 研 究所所長)
東日本大震災後の被災地支援研 究
似田貝 香門 (東京大学 名誉 教 授)
第Ⅱ部 パネル討論
ファシリテー タ
吉村 (日本学 術会 議連携会 員・ 東京大学 大学 院工学 系研 究科副研 究科長)
パネリスト
奥 村 次徳 (日本学 術会 議連携会 員・ 東京都立産業技術研 究センター 理事長)
大倉 典子 (日本学 術会 議連携会 員・ 芝浦工業大学 工学 部教 授)
狩野 光伸 (日本学 術会 議特任連携会 員・ 岡山大学 大学 院医 歯 薬 学 総 合研 究科教
授)
瀬 山
倫子
(日本学 術会 議連携会 員・
NTT
先端集積デバイス研 究所主幹研 究員)
閉会 挨拶
渡辺 美代子 (日本学 術会 議会 員・ JST 副理事)
36

Page 43
<付録1> 知の統合を巡るこれまでの様々な議論
(1) 日本学術会議の過去の2つの提言の概要
日本学 術会 議は知の統合に関 して2つの重要な提言を行っている。1つ目は 2007
の科学 者コミュニティと知の統合委員会 提言『知の統合-社会 のための科学 に向けて-』
[1]であり、2つ目は 2011 年の社会 のための学 術としての「知の統合」推進委員会 提言
『社会 のための学 術としての「知の統合」― その具現に向けて― 』[2]である。
[1]では、知がより有効 に社会 に資するために科学 者コミュニティは何をすべきかの
観 点から
知の統合
議論している。まず知の統合を、
異なる研 究分野の間に共通する
概 念、手法、構造を抽出することによってそれぞれの分野の間での知の互換性を確立し、
それを通じてより普遍的な知の体系を作り上げること」と定義し、新たな価 値を生むが
新しい知を生まない「総 合」や異なる分野の知が1つに融け合う「融合」とは異なる概
念としている。①旧 来 の学 術が知の体系の細分化に流れ、「社会 のための科学 」の障壁と
なっていること、②科学 者コミュニティが知の細分化問題を十分に自覚 していないこと
2 点を課題と指摘し、知の統合が、社会 のための科学 の実 現にとって必要不可欠な概
念であり、学 問論であり、また方法論であるとして、知の統合への熱い期待を述べてい
る。さらに、知の統合を図 る施策として、①認識科学 の知が設計科学 によって社会 化さ
れるとの立場から認識科学 と設計科学 の連携促進、②研 究成果の産業化や社会 化に関 し
て広 い知を結集し俯瞰的に洞察できる能力を持った研 究マネー ジメントリー ダの養成、
③異分野科学 者間の対 話を促進するため、文と理のインター フェー スを果たす人材の育
成や異分野間の知的触 発 を促進する教 育研 究環境の整備などを挙 げている。なお、認識
科学 と設計科学 の連携促進に関 しては、運営 審議会 附置新しい学 術体系委員会 報告『新
しい学 術の体系― 社会 のための学 術と文理の融合― 』[56]が、科学 を「あるものの探究」
としての認識科学 と「あるべきものの探究」としての設計科学 とに区 分し、これらを両
輪とする新しい学 術の体系の構築の必要性を指摘している。
[2]では、総 合工学 や第三部に止まらず、幅広 い学 術の視点から知の統合の推進を目指
して、人文・ 社会 科学 や生命科学 を含む学 術全体で知の統合を審議する課題別委員会 を
設立し、新しい発 見や創造あるいはイノベー ションのための知の統合に、また知を結集
し統合的研 究を進め社会 の問題解決のための知の統合に、必要な具体的な方法論や方策
を明らかにしている。具体的には、[1]の指摘に加えて、知の統合を阻む壁を詳細化し、
①学 術分野を跨いだ基本概 念の互換性の欠如、②デー タ公開のインセンティブの欠如、
③人材移動の困難性、④実 務コストの問題、⑤科学 と社会 の接点を担う人材の不足等を
指摘し、知の統合に繋 がる異分野間連携の成功事例の分析を通して、①時代の必然的要
請、②連携を行う場の存在、③推進を担う適切な人材の存在といった、3つの連携成功
要因を見出している。その上で、知の統合を推進するための具体的な方策として、①知
識を構造化した「知の統合知識ベー ス」の整備、②社会 的課題の解決と知の統合の推進
を同時に実 現する枠 組み・ 技術の整備といった、知の統合を推進する基盤の必要性を訴
えている。知の統合人材の育成と量的拡 大のためには、知の統合研 究の評価 の枠 組みや
当 該人材のキャリアパスの整備が必要であることを指摘している。また知の統合研 究に
37

Page 44
は旧 来 の学 術とは異なる評価 が必要とし、その評価 軸として事前評価 軸(研 究の独 創性、
研 究組織の多様 性、展開性・ 波及効 果への期待感)と事後評価 軸(有用性、普遍性、展
開性・ 波及効 果)を挙 げ、これまでの研 究評価 基準の見直しを求めている。
前述の提言[1][2]の間に、日本の展望委員会 提言『日本の展望― 学 術からの提言 2010
[3]があり、その一部で知の統合に言及している。[3]では、学 術研 究の近未来 として、
具体的な研 究領域における諸科学 (文理)の連携、協働 を進め、蓄積しつつある地球規
模の問題を解決するための統合的な研 究、また、それを体系化する「統合の科学 」を発
展させるべきと主張している。その上で、理学 ・ 工学 分野の課題は、①社会 のための科
学 の流れの中で、科学 の目標は固定価 値の解明から変 化過程の解明・ 問題解決へシフト、
②科学 ・ 技術分野を細分化する手法では、現在の社会 が抱える環境等の地球的・ 複合的
課題に対 応 することは困難、との現状 認識を示し、近年は、従 来 の領域型分野を横 につ
なぎ、あるいは縦 に編成し、新しい価 値観 や科学 ・ 技術を生み出す知の統合とそのため
の新しい研 究方法論(例えば、e-サイエンス)の開拓や新しい研 究推進体制(例えば、
バー チャル研 究所)の構築が必要と指摘している。
研 究評価 全般に関 しては、2008 年の研 究評価 の在り方検 討委員会 対 外報告『我が国 に
おける研 究評価 の現状 とその在り方について』[4]に纏められている。[4]では、現状 お
よび問題点として、①評価 のために膨大な時間とエネルギー が費やされ、評価 の形式化
や評価 作業への徒労 感があること、②評価 対 象の違いに応 じた評価 基準の適正化・ 精緻
化が必要なこと、③評価 者、評価 方法・ 基準を重要研 究課題や研 究施策の推進側が決定
しているため公正性や透明性に疑念が生じる可能性があること、④評価 業務を実 施・ 支
援するための人的および物的な基盤整備が不十分であることなどが指摘されている。中
でも融合研 究分野や挑戦 的な研 究課題については、特性に即した評価 基準を設定し、研
究分野を熟知した評価 者によってなされるべきであるとされている。その上で、(1)
究課題に応 じた評価 や研 究評価 に対 する国 民の理解など研 究課題評価 の在り方と、(2)
第三者評価 の実 施体制、評価 事例の検 証、評価 に係る人材の育成など第三者評価 の必要
性とその在り方について提言が行われている。そこでは、人文・ 社会 系分野等を含めた
多様 な研 究分野の評価 方法の確立、研 修を通じて評価 者能力の向上や評価 自体の専 門知
識を有する人材の養成の必要性が指摘されている。
(2) 日本学術会議総合工学委員会等の過去の報告・記録の概要
日本学 術会 議の下部組織である自動制御研 究連絡委員会 、工学 共通基盤研 究連絡委員
会 、総 合工学 委員会 では、知の統合について継 続 的に議論してきた。日本学 術会 議の中
で、知の統合という概 念が最初に現れたのは、平成 17 年7月 21 日付けの自動制御研 究
連絡委員会 と工学 共通基盤研 究連絡委員会 自動制御学 専 門委員会 の連名による報告『横
断 型基幹科学 技術としての制御学 の役割― 「知の統合」を目指す研 究・ 教 育の促進に向
けて― 』[5]である。その後、議論は総 合工学 委員会 や下部組織の工学 基盤における知の
統合分科会 に引き継 がれ、その調査研 究の成果が報告・ 記録 [6][7][8][9]に取りまとめ
られている。
38

Page 45
[5]では、知の統合を「あるべきものの探求」の科学 である設計科学 (利用知の体系化)
や「機能・ 働 き(コト)」を扱う横 断 型基幹科学 技術との関 係から捉えている。すなわ
ち、様 々 な社会 的課題を解決する社会 のための学 術の発 展に貢献 するには、①「対 象(も
の)の知」と「機能・ 働 き(コト)の知」の統合が不可欠であること、②対 象(もの)
を扱って来 た旧 来 の個別学 問分野(縦 型科学 )の振興だけでは不十分で、機能・ 働 き(コ
ト)」を扱う「横 断 型基幹科学 技術」(横 断 型科学 )の振興が重要であること、③科学 技
術を「たてとよこ」の2次元構造として捉え、異分野間の融合を促進し新しい学 問分野
を創成することの必要性を主張し、具体的方策として科学 研 究費補助金の審査方式に
「縦 型・ 横 断 型の2次元構造」を導入することを提案している。
総 合工学 委員会 工学 基盤における知の統合分科会 記録 『知の統合の具体的方策― 工学
基盤からの視点― 』[6]では、知の統合を推進する具体的な方策として、①戦 略的研 究プ
ロジェクトを通したトップダウン型の知の統合(課題解決型研 究)の推進と、②科学 研
究費補助金システムによるボトムアップ型の知の統合(好奇心駆 動型)の推進の2つが
あると指摘し、それぞれの方策が成功する要因を導き出している。課題解決型では、知
の統合を内 部にはらみ知の統合を通じて具体的に進行するプロジェクトの立ち上げが、
好奇心駆 動型では、日本学 術会 議イノベー ション推進検 討委員会 報告「科学 者コミュニ
ティが描く未来 の社会 」[27]で示された 274 個の「創出すべきイノベー ション」の提案
者にアンケー ト調査し、当 時の科学 研 究費補助金審査システムでは複数 の系・ 分野・ 分
科・ 細目に跨る知の統合型研 究に対 応 できないことを確認した上で、新しい研 究種目を
追加し、知の統合の趣旨に沿った応 募研 究領域の指定方式と評定要素の導入が、それぞ
れ鍵であると指摘している。
総 合工学 委員会 報告『総 合工学 分野の展望』[7]では、総 合工学 の主な役割の1つが知
の統合の具現化であるとし、その具体的なプロセスを明らかにする議論が展開され、併
せて人材育成の重要性が指摘されている。
総 合工学 委員会 工学 基盤における知の統合分科会 記録 『知の統合の体系化と推進に向
けて― 工学 基盤からの視点― 』[8]では、これまでの知の統合に加えて、新たに知の統合
学 を人文・ 社会 科学 、自然科学 、設計科学 ないしは創造科学 を横 断 的に俯瞰し、知の統
合のための方法論と方策を明確にし、その体系化をはかるとともに、知の統合を実 践 し
ていくための科学 と定義した上で、2つの小委員会 を置いて検 討している。知の統合体
系化小委員会 では、具体的事例をベー スに知の統合の起こり方を抽出し、新しい分野で
知の統合を引き起こす際の「方法論知」を導出した上で、異分野交流の場を有効 で効 率
的にする工夫や知の統合を加速する大型プロジェクトの推進(国 レベルの政策的資源の
投下)が課題と指摘した。一方、知の統合推進小委員会 では、研 究費配分など外部資金
の最近の動向に検 討を加え、「研 究を育て膨らませる評価 」に焦点を当 てた推進方策を検
討している。知の統合研 究の評価 は、科学 技術の重心が要素還元型から知の統合型へ、
また個別技術から統合化技術(システムインテグレー ション技術)へ移動したことを踏
まえて、知の統合研 究の特性にも配慮して、評価 指標を、短期より長期的、数 値よりも
非数 値へとシフトすべきとしている。具体的には、統合に向けたアプロー チを評価 する
39

Page 46
ことの重要性を指摘し、既 存分野に変 革をもたらす研 究(Transformat i ve Research)、展
開性・ 波及効 果・ 相乗 効 果、研 究組織の多様 性、アプロー チ(研 究シナリオ)の妥当 性
などを評価 指標に追加すべきとしている。
総 合工学 委員会 工学 基盤における知の統合分科会 記録 『知の統合への具体的な方法論
と方策の提案』[9]では、現状 では知の統合が、優れたリー ダや個人の直感力・ 才能・ 感
性に強 く依存し、その技能が師弟間の直伝 など暗黙 知による継 承に止まり、大学 等で教
育可能な形式知化されていないと指摘している。これを知の統合学 に昇華するため、社
会 を構成する人間・ 生態系・ 環境・ 人工物を機能面から設計・ 試作・ 仮想体験 可能なイ
ンタラクティブな「バー チャル・ ユニバー ス」(モデル化、シミュレー ション、予測、意
思決定、VR などのヒュー マンインタフェー ス)をスパコンやネットワー ク上のサイバー
空間に仮想的に展開し、様 々 な立場のメンバー が分散して活用可能な知の統合プラット
フォー ムの構築を提案している。また、知の統合を担う組織の構成・ 運営 やファンディ
ングシステムの在り方にも言及している。特に組織については、異分野の研 究者が集い
相互作用しながら知の統合を実 現し、具体的に社会 的課題の解決を指向し、その運営 に
ついても、各研 究者は既 存の専 門分野別組織と知の統合を遂行する組織の両 組織に同時
に所属 し、専 門性の深化とともに異分野の研 究者たちと知の統合を推進することで、新
しい分野の開拓や社会 的課題解決に取り組む方式を提案している。
また、関 連する議論として、情報学 委員会 e-サイエンス・ デー タ中心科学 分科会 は、
提言『ビッグデー タ時代に対 応 する人材の育成』[29]で、高まるデー タサイエンスの重
要性からビッグデー タを扱うデー タサイエンティストの育成の重要性を指摘している。
デー タ中心科学 の実 践 における課題の本質の把握、定式化、デー タ取得、分析、知識獲
得、課題解決の全過程に関 与 するデー タサイエンティストは、まさしく知の統合人材の
1つの類型である。
(3) 横幹連合における議論
専 門用語としての「知の統合」とその概 念を日本で最初に使い始めたのは、文理に跨
って約 40 近い異分野の学 会 が集い、様 々 な提言や研 究活動を行っている特定非営 利法
人横 断 型基幹科学 技術研 究団 体連合(略称 、横 幹連合、20034 月設立)である。横 幹連
合の設立準備をしていたグルー プは、20029 月から 20043 月に掛けて文部科学 省
から振興調整費科学 技術政策提言の調査研 究を受託し、20046 月に報告書『横 断 型科
学 技術の役割とその推進』(研 究代表者:木村英紀) [57]を取りまとめた。その中で、知
の統合に関 して
?
際限なく進む知の細分化と、現代社会 が要求する知の統合化との間のギャップは、広
がりつつある。知の細分化は自然に進むが、統合は意識的に取り組まなければ達成さ
れない。
?
最近の科学 技術の激しい変 貌、特にその社会 との接点の劇的な広 がりは、これまでの
枠 を超えた知の統合のための新しい概 念と、このギャップを埋める国 家レベルでの戦
略的な取り組みを必要としている。知の統合のための戦 略はどの国 でも科学 技術政策
40

Page 47
の最重要課題のひとつとなりつつある。
との見解を表明し、知の統合が目指すべきものを明らかにしている。
木村を中心としたグルー プは、ほぼ同時期に日本学 術会 議の中に自動制御研 究連絡委
員会 ・ 工学 共通基盤研 究連絡委員会 自動制御学 専 門委員会 を立ち上げ、知の統合を目指
す研 究・ 教 育の促進策の検 討を進め、20057 月に日本学 術会 議としての報告[5]を取
り纏めている。この動きが日本学 術会 議全体の中でも次第に広 がり、20073 月の日本
学 術会 議科学 者コミュニティと知の統合委員会 提言『知の統合― 社会 のための科学 に向
けて― 』[1]に結びついて行くことになる。
横 幹連合は引き続 き知の統合について、学 の立場から調査研 究を推し進め、20068
月には「学 としての知の統合委員会 」を立ち上げ、「知」の異分野での流通と統合の問題
を、
知の融合」というよりはさらに積極的で構成的な立場での
知の統合」を研 究する
という立場から、
知の統合」に対 して
?
異なる研 究分野の間に共通する概 念、手法、構造を抽出することによってそれぞれの
分野の間での知の互換性を確立し、それを通してより普遍的な知の体系を作り上げる
ことである
とする定義を初めて与 えている[58]。なお、この時点で既 に「知の統合」は「知の融合」
とは別物との認識を同時に打ち出している。これらの定義と考えは、そのまま前述した
日本学 術会 議科学 者コミュニティと知の統合委員会 提言『知の統合― 社会 のための科学
に向けて― 』[1]に採用されている。
また、横 幹連合は 20069 月に内 閣府平成 18 年度科学 技術振興調整費イノベー ショ
ン戦 略に関 する調査・ 研 究を受託し、それに先立って設置した横 幹連合「学 としての知
の統合委員会 」の助言を受けて、成果報告『イノベー ション戦 略に係る知の融合調査』
[59]を取り纏めている。ちなみに、成果報告書のタイトル等で「知の統合」でなく「知
の融合」が使われているのは、委託元である内 閣府の当 時の考え方であり、まだ「知の
統合」が市民権 を得ていなかったことの現れと言える。同調査では、
?
研 究開発 の成果が社会 的な価 値や経 済 的価 値を持つために、本来 とは異なる研 究分野
の知識や方法が大きな役割を果たした事例
?
複数 の分野の知識や方法同士がうまくかみ合って初めて社会 的な価 値や経 済 的価 値
を持ち得た事例
を収 集し、これらの事例を通して、
?
異分野の「知の融合」がイノベー ション戦 略の一つの形態となり得る
ことを検 証している。同調査活動と横 幹連合「学 としての知の統合委員会 」との関 係が
成果報告付録 [58]で確認できる。
次に専 門用語としての「知の統合学 」について見てみると、これも横 幹連合の活動の
中で産まれてきたと考えられる。知の統合学 という用語が使われたのは、恐らく舘 によ
る横 幹連合ニュー ズレター の巻 頭メッセー ジ[60]が最初であろう。その中で、舘 は「知
の統合学 」と「横 幹科学 」とをほぼ同義の概 念として用い、
?
総 合的な学 問体系として、「横 幹科学 」は、科学 技術を総 合し俯瞰的な視座を備えた「新
41

Page 48
しい構成論と設計論の確立」や「実 問題の俯瞰的な解決」を目指してきている。「横 幹
科学 」は、「人文科学 、社会 科学 、自然科学 を横 断 的に俯瞰して、知の統合のための方
法論とツー ルを明確にし、その体系化をはかるとともに、知の統合を実 践 してゆくた
めの科学 」である。
としている。同様 の議論が[61]にもある。舘 は日本学 術会 議における知の統合の議論に
長年にわたり深く関 わり[7][8][9]、知の統合と知の統合学 との関 係を
?
「知の統合」が普遍的な知の体系を作り上げることであるとすれば、そのためには、
作り上げるための学 術体系、技術体系が必要であることは明らかである。普遍的な知
の体系を作り上げるための方法論や方策論などが「知の統合学 」であり、「知の統合」
は、究極的には、そのメタな学 問体系といえる「知の統合学 」をも目指しているとい
える。
?
つまり、「知の統合学 」は、知の統合のためのメタな学 問体系としての「知の統合のた
めの設計論と構成論の確立」と「知の統合による実 問題の俯瞰的解決法」を目指して
きている。すなわち、「知の統合学 」は、「人文・ 社会 科学 、自然科学 、設計科学 ない
しは創造科学 を横 断 的に俯瞰し、知の統合のための方法論と方策を明確にし、その体
系化をはかるとともに、知の統合を実 践 してゆくための科学 」といえよう。
と総 括している[9][62]。なお、2016 年の日本学 術会 議総 合工学 シンポジウム 2016 にお
いて、舘 は、知の統合学 を
?
知の統合のためのメタな学 問体系としての「知の統合のための設計論と構成論の確立」
と「知の統合による実 問題の俯瞰的解決法」を目指す学 問
と簡潔に再定義している[51]
このように、知の統合と知の統合学 の概 念は、横 幹連合の活動の中で生まれ、その議
論が日本学 術会 議に引き継 がれてオー ソライズされるとともに、より精緻化され、広 く
使われる概 念に発 展して行ったことが分かる。
(4) 知の統合に関連する行政側の議論
日本学 術会 議の外に目を向けても、知の統合人材という言葉を明示的に出さないまで
も、その重要性や人材育成へ向けた教 育改革の議論・ 試みが活発 である。
2013614 日に閣議決定された『第2期教 育振興基本計画 (対 象期間:平成 25
度~平成 29 年度)』 [38]においても、教 育行政が今後5年間に実 施すべき教 育上の方策
として4つの基本的方向性が示され、その1つに高等教 育の役割として「未来 への飛躍
を実 現する人材の養成」が取り上げられ、変 化や新たな価 値を主導・ 創造し、社会 の各
分野を牽引していく人材の重要性が指摘されている。その上で、具体的施策として、
造性やチャレンジ精神、リー ダシップ、日本人としてのアイデンティティ、語学 力・ コ
ミュニケー ション能力などの育成に向けた多様 な体験 ・ 切磋琢磨の機会 の増 大や優れた
能力と多様 な個性を伸ばす環境の醸 成が謳われている。知の統合人材は、この「未来 へ
の飛躍を実 現する人材」と軌を一にするものと言える。
2014 12 22 日の中央教 育審議会 答申『新しい時代にふさわしい高大接続 の実 現に
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向けた高等学 校教 育、大学 教 育、大学 入学 者選抜 の一体的改革について~すべての若者
が夢や目標を芽吹かせ、未来 に花開かせるために~』[63]では、単 に知識や技能だけで
なく、思考力・判断 力・表現力等を含む多元的な学 力の重要性を指摘し、大学 入試も多元
的学 力の測定に大転 換すべきと指摘している。
2015 1 27 日の科学 技術・ 学 術審議会 人材委員会 提言『第 7 期人材委員会 提言』
[64]は、研 究開発 力強 化に向けた産学 一体の人材育成に関 して、「教 育の重点が、知識
を創造し、活用することができる人材を育成するための教 育に移行しているものと理解
できる。特に、博士号 を取得した者については、広 い教 養と深い専 門知識をもち、かつ
社会 的課題の解決にその知識を活用できる人材として、その重要性が更に高まっている。
高度な専 門性に加え、俯瞰力と独 創性および社会 的視野を備え、国 内 外、産学 官にわた
り活躍することのできる人材を育成するため、専 門分野の枠 を超えた体系的な大学 院教
育を確立していくことが引き続 き求められる。」と主張している。
文部科学 省と経 済 産業省が共同で開催した理工系人材育成に関 する産学 官円卓会 議
は、20160802 日に『理工系人材育成に関 する産学 官行動計画 』[32]を取りまとめ、
その中で専 門分野の枠 を超えた俯瞰的な視点を持ち、修得した知識・ 技術を社会 に応 用
できる実 践 的・ 専 門的な能力を育成するため、実 践 的な内 容・ 方法による授業の提供(産
業界から講師の派遣・ 登用、PBL、企業の実 例を用いた演習、インター ンシップ等)の促
進、産学 共同研 究を通じた博士人材の育成、研 究開発 プロジェクト等を通じた人材の育
成など、産業界との密な連携の重要性を強 調している。
2016418 日に文部科学 省が『第3期教 育振興基本計画 (対 象期間:平成 30 年度
~平成 34 年度)』策定のために中央教 育審議会 に対 して諮問した中でも「主体的に判断
し、多様 な人々 と協働 しながら新たな価 値を創造する力を、あらゆる教 育段階を通じて
身に付けることが謳われている[54][55]
このように本報告が取り上げている知の統合人材の育成と人材育成のための方策は、
わが国 が今後取り組もうとしている各種施策を後押しする具体的な提案と言える。
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<付録2> システム科学研究所構想について
(出典[52])
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<付録3> 知の統合プラットフォーム研究開発拠点KCP-Complexの形成
(出典[53]
計画の概要
現代社会 が直面する複合的課題の解決やその影響を軽 減し、第 5 期科学 技術基本計画 に掲
げられた「超スマー ト社会 」の実 現に向けて、新しい技術やシステム、制度をデザインし
社会 実 装する際に、多数 の利害関 係者がインタラクティブに合意形成を進めるための知の
統合プラットフォー ム研 究開発 拠 点 KCP-Compl ex を形成する。
ここでは、現代社会 の主要構成要素を、自然物理系、生命・ 生態系、人間・ 社会 系、人
工物系等にカテゴリー 分けし、それぞれに内 包されるサブシステムを、現代社会 への影響
や機能、価 値の面から捉え直し、各サブシステムの応 答を定性的あるいは定量的に評価 可
能なモデルとして構築する。それらを総 合し、現代社会 の複合的で非線形な応 答を定性的
あるいは定量的に評価 可能な
SoS
Syst em of Syst ems
)シミュレー タとして再構成する。
各サブシステムの総 合にあたっては、異領域間の知の相互作用を考慮した「知の統合プ
ラットフォー ム連携プロトコル」を設計・ 構築することで、実 現する。さらに、同プラッ
トフォー ムに、現実 世界情報のセンシングツー ル、
VR
AR
等の体感ツー ル、現実 世界へ働
きかけるアクチュエー タを接続 し、同プラットフォー ムと現実 世界の双 方向のフィー ドバ
ック及び共進を再現し、その活用を通して、新しい技術やシステム、制度をデザインし社
会 実 装する際に多様 な利害関 係者らのインタラクティブな合意形成を支援する。この知の
統合プラットフォー ムとその研 究開発 運用を担う拠 点を KCP-Compl ex と総 称 する。KCP-
Compl ex は、複雑 な現代社会 を理解し、様 々 な解決策をプロトタイピングするための仕組
みであり、文理にわたる異領域の多様 な専 門家らが、「知の統合」の学 理と方法論、実 社会
への実 装を研 究する拠 点となる。
目的と実施内容
I oT の実 装を前提とした自動運転 の導入やスマー トグリッドとの連携が進む次世代交通
物流システム等、現代社会 においては、新しい技術やシステム、制度の研 究開発 とスムー
スな社会 実 装が求められている。しかし、そのためには、個別技術開発 のみでは不十分で
あり、社会 実 装を想定したシステム総 合評価 と社会 的メリットとリスクの抽出、一般市民
を含む多数 の利害関 係者間の合意形成を、平行して進めることが必須である。本提案は、
そのための知の統合プラットフォー ム研 究開発 拠 点 KCP-Compl ex を形成することを目的と
する。
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知の統合プラットフォー ムの骨格は次
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の通りである。現代社会 の主要構成要素
を、自然物理系、生命・ 生態系、人間・ 社
会 系、人工物系等にカテゴリー 分けし、各
サブシステムを、現代社会 への影響や機
能、価 値の面から捉え直し、モデル化を行
う。それらを総 合し、現代社会 の複合的で
非線形な応 答を定性的、定量的に評価 可
能なシミュレー タとして再構築する。
各サブシステムの総 合にあたっては、異領域間の相互作用を考慮した「知の統合プラッ
トフォー ム連携プロトコル」を設計・ 構築することで実 現する。さらに、同プラットフォ
ー ムに、現実 世界情報のセンシングツー ル、
VR
AR
等の体感ツー ル、現実 世界へ働 きかけ
るアクチュエー タ等を取り込 み、同プラットフォー ムと現実 世界の双 方向のフィー ドバッ
ク機構及び共進を実 現する。
組織としては、少数 の中核機関 とそれにつながるサテライト機関 からなるハブ&スポー
ク型拠 点を構成する。ここに、自然物理系、生命・ 生態系、人間・ 社会 系、人工物系等の
専 門家、センシング、アクチュエ― タに関 する専 門家、社会 学 等に関 する専 門家を招集し、
I oT の実 装を前提とした次世代交通物流システムという「超スマー ト社会 」の基盤となる
具体的事例を設定し、「知の統合」に基づく研 究開発 を進める。
学術的な意義
本計画 の第一の学 術的意義は、自然環境、人間・ 社会 系、生態系、人工物・ 人工システ
ム等が相互作用しながら非線形に進化する現実 社会 を、サブシステムに分解してモデル化
を行い、それらを知の統合プラットフォー ムとして再構成する取り組みを通して、従 来 個
別独 立に研 究対 象とされてきた異なる学 術分野や現象の相互作用に焦点を当 てた新学 術分
野を創成する点である。これは、日本学 術会 議において長年議論されてきた「知の統合」
の具現にあたる。たとえば、物理系においては、マルチフィジクス・ マルチスケー ル概 念
が重要な学 術概 念として近年急成長し、具体的な方法論についても目覚 ましい進展が見ら
れる。本計画 では、物理系現象と人間・ 社会 系現象の相互作用を学 術的に検 討することを
通して、社会 系におけるマルチソー シャル、マルチスケー ル概 念を構築し、その具体的な
方法論に関 する研 究が進むと期待される。
第二の学 術的意義は、現実 社会 と KCP-Compl ex の間を、多様 なセンサー やアクチュエー
タ、AR 等の実 体化技術で結びつけ、両 者にフィー ドバック機構を実 現することにより、バ
ー チャル世界と現実 世界が相互作用しながら共創的に時間発 展するというサイバー ・ フィ
ジカル課題を SoS の観 点から研 究する新たな学 術分野が創成される点である。これは現実
社会 に存在する SoS のマネジメントを行うために、大きな貢献 を担う。
第三の学 術的意義は、KCP-Compl ex を活用することにより、一般市民を含む多様 な利害
関 係者が現代社会 の複合的な課題に対 して、様 々 なバー チャル社会 実 験 を遂行し、その効
果を多様 な価 値の観 点から評価 できること、また、そうした情報をベー スに、インタラク
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ティブな合意形成を促進するという新しい社会 課題解決メソッドを構築できるという点で
ある。
国内外の動向と当該研究計画の位置づけ
「知の統合」に関 しては、20118 月の「提言:社会 のための学 術としての「知の統合」
-その具現に向けて-」(日本学 術会 議)、に述べられているように、学 術分野間、学 術分
野と社会 間の連携が行われてきた。人文学 と情報科学 の事例としてデジタル・ ヒュー マニ
ティー ズ、医 学 と工学 の事例としてはナノバイオテクノロジー などである。しかし、一般
的な「知の統合」の方法論が語られることはなかった。本計画 は、「知の統合」の具現を進
めるための基盤構築に関 する世界初の取り組みである。また、具体的なエネルギー 問題、
環境問題、交通・ 物流問題の解決や、「超スマー ト社会 」の実 現に向けて、複合的観 点から
総 合的にデザイン、合意形成を図 るためのアプロー チは見出されておらず、本計画 は、総
合的な課題解決に向けて多様 な利害関 係者のインタラクティブな合意形成を図 るための画
期的なアプロー チとなる。
実施機関と実施体制
本拠 点の組織としては、少数 の中核機関 とそれにつながるサテライト機関 からなるハブ&
スポー ク型拠 点を構成する。東京大学 大学 院工学 系研 究科、同大学 院情報理工学 系研 究科、
慶應義塾大学 大学 院システムデザイン・ マネジメント研 究科に中核拠 点を設置し、そこに、
計測自動制御学 会 、日本 VR 学 会 、人工知能学 会 、日本計算力学 連合、情報・ システム研 究
機構等に所属 する全国 の研 究者や海外大学 ・ 研 究期間の研 究者がサテライト機関 の連携研
究員として参 画 する。
実 行組織としては、拠 点長、副拠 点長のもとに、参 画 研 究者らを、(1)自然物理系ユニッ
ト、(2)生命・ 生態系ユニット、 (3)人間系ユニット、(4)社会 系ユニット、(5)人工物・ 人
工システム系ユニット、
(6)
連携プロトコルユニット、
(7)
センシング系ユニット、
(8)VR
AR ユニット、(9)アクチュエー タ系ユニット等、及び文系の研 究者に参 画 いただく(10)
値・ 社会 学 系ユニット、のもとに束ねる。
この拠 点においては、多様 な分野の専 門家が相互作用しながら「知の統合」を実 現し、
大きな社会 的課題の解決にあたっていくために、各研 究員は、専 門分野の既 存の組織と、
「知の統合」を遂行する組織の両 方に所属 し、どちらの組織においても主務として務める。
物理的な移動に加えて、専 門分野の主務と「知の統合」を遂行する主務の間を自由に行っ
たり来 たりするバー チャル空間の構築とその効 率的活用が必要であり、「知の統合プラッ
トフォー ム」はその取り組みを支援する役割も果たす。
所要経費
平成 2935 年度:33.3 億円 (組織整備費:6 億円、運営 費:27.0 億円、国 際シンポジ
ウム開催費:0.3 億円)
平成 29 年度組織整備費:6 億円 (中核拠 点整備費:5 億円、研 究費:1 億円)
平成 2935 年度定常経 費:27.0 億円(毎 年 4.5 億円×6 年)
運営 費:年間 4.5 億円 (設備運営 費:7 千万円、人件費:7 千万円、研 究費:1 億円、シ
ステム開発 委託費:1.5 億円、システム検 証費:4 千万円、旅費:2 千万円)
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平成 313335 年度国 際シンポジウム開催費:0.3 億円(1 千万円×3 回)
年次計画
平成 29 年度から平成 30 年度前半まで
(1) 拠 点形成に向けた研 究開発 体制を確立する。東京大学 大学 院工学 系研 究科及び同
情報理工学 系研 究科、慶應義塾大学 大学 院システムデザイン・ マネジメント研 究科に
KCP-Compl ex の中核拠 点を整備し、そのもとに大学 ・ 民間研 究機関 、学 協会 など連携
研 究者の研 究開発 ネットワー ク(ハブ&スポー ク型)を構築する。
(2) 知の統合プラットフォー ムの主要構成要素の設計を行い、研 究開発 を開始する。連
携プロトコルは、異なるサブシステム間の相互作用に加えて、サブシステムと人(個
人・ 組織・ 集団 )の相互作用、社会 的価 値評価 等を視野に入れ構築する。
平成 30 年後半から 32 年後半
(3) 各サブシステム等及び連携プロトコルの構築を進めると同時に、機能検 証を行い、
修正し、全体を組み上げる。
(4) I oT を前提として次世代交通物流システムへの KCP-Compl ex の適用を進め、シミュ
レー ションを実 行する。
平成 33 年度前半から平成 35 年度
(5) 専 門家、行政担当 者や一般市民に参 加いただきバー チャル社会 実 験 を実 施し、社会
的合意形成に取り組む。
(6) KCP-Compl ex の構築プロセス、及び実 問題への適用プロセスを分析することにより、
性能検 証を進める。
(7) 平成 31 年度、33 年度、35 年度に国 際会 議開催と共に外部研 究者による評価 を受
ける。
社会的価値
現代社会 内 の複雑 な因果関 係を、利害関 係者が KCP-Compl ex を活用することによって定量
的に把握することができ、社会 的課題解決に向けてインタラクティブに社会 的合意形成を
促進できる。専 門家に独 占されがちな、高度な先端的科学 技術情報や知見をわかりやすく
市民に提供することができ、市民からのボトムアップなプロセスを経 て新たな知が創造さ
れる。
本計画に関する連絡先 吉村 忍(日本学 術会 議/東京大学 大学 院工学 系研 究科
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